なぜドーピング騒動で名誉を傷つけられた井岡一翔はJBCの中途半端な公開謝罪を受け入れたのか…幹部2人は進退伺い提出も辞任せず
プロボクシングのWBO世界スーパーフライ級王者の井岡一翔(32、Ambition)が12日、東京ドームホテルでJBC(日本ボクシングコミッション)の永田有平理事長(66)とともに記者会見に臨み、JBCの不手際により起きたドーピング騒動に関する“公開謝罪”を受け入れた。“和解”の条件としていた4箇条の要求に対するJBC側の回答は、不満の残るものだったが、早ければ9月にも指名試合を予定している井岡は「一つのけじめ。僕自身が次へ進んでいかねばならない」として受け入れを決断したもの。永田理事長は浦谷信彰執行理事と共に進退伺いを提出したことを明かしたが、結論は8月30日に予定されている理事会に委ねるという。ドーピング問題の完全決着はまだついていない。
「解決した気分ではないがひとつのケジメ」
握手はなかった。 会見の冒頭でJBCのトップである永田理事長は、昨年の大晦日に行われた井岡対元3階級制覇王者の田中恒成(26、畑中)のWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチで起きたドーピング疑惑に関しての不手際と、井岡並びにその家族に対して多大な迷惑をかけたことを謝罪。謝罪文を手渡して深々と頭を下げた。 続いて井岡は用意してきた文書を読み上げた。 「JBCからドーピングの一連の騒動に関して直接の謝罪を受けた。直接受けることを重要視して求めてきた。すっきりと解決した気分ではないが、ひとつのケジメとして受け入れたい。一連の騒動で受けた苦悩は様々な場所で語ってきたが、私と同じ目にあうような選手が二度と出ないようにして欲しい。このような辛い思いをするのは私だけで十分だ。 (JBCは)私の指摘した誤りをすべて認めて対応した。これでひとつのケジメがついたので、スポーツマンらしく次の防衛戦に勝つことに努力を続けていきたい。前向きに勝つことに集中したい」 ドーピング疑惑に「潔白」「違反はなかった」との結論が出されたのが5月19日。第三者で構成された倫理委員会の答申によりJBCの杜撰な検体の管理や、その後の手続き上の数々の不備が明らかにされ、井岡は会見で「謝罪だけでは納得がいかない。絶対に許せない。現役を続ける上で今の(JBCの)体制でやっていくのには怖いという気持ちがある」と怒りを口にしていた。その後、JBCは、2度にわたり謝罪文を公式サイトに掲載した上で、直接謝罪を申し入れたが、井岡サイドは「責任なき謝罪」を認めず拒否。所属ジムは日本プロボクシング協会に(1)JBC執行部の責任を求め、現委員が退任する(2)情報漏洩の原因を明らかにする(3)ドーピング検査を整備し国際基準に準拠させる(4)井岡・田中両選手に対し誠意ある謝罪をし名誉回復を講じる、との4箇条の上申書を提出していた。 詳しくは、後述するが、今回のJBCの回答は、これらの4箇条の要求に応えたと言えるものではなかったが、井岡は、怒りの矛先を収めて和解に応じた。 なぜなのか。井岡は、その理由をこう説明した。 「僕と家族が味わった苦労や苦しみを考えると謝られて済むという解釈じゃない。でもそれ(怒りや不満)をJBCにいつまでも言い続けることもできない。現役生活もある。その狭間の中で気持ちの整理、決断をしなければならなかった。ひとつの区切りとして、許す、許さないではなく、謝罪を受けいれて僕自身が次へ進んでいかねばならない」 素直な気持ちだろう。 井岡はWBOから同級2位フランシスコ・ロドリゲスJr.(29、メキシコ)との指名試合を要請されており、入国が可能であれば、9月にも国内で行う予定を進めている。いつまでもJBCの煮え切らない結論を待っているわけにはいかない。 「試合をやるとなるとJBCに協力、関わりを持っていかなくてはならないので(謝罪を拒否したままでは)気持ちとして難しい。ボクシング人生で求めていることがあり、このことで止まるわけにはいかない。役割、仕事、家族もいる。自分の中で簡単ではないが切り替えて次の試合に進んでいこう。やると決めたらやらないといけないと、決断した」