〈解説〉マイクロプラスチックが心臓発作や脳卒中、死亡と関連 人体への影響示す初の証拠
動脈の壁にたまった沈着物にプラ粒子、死亡リスクには約4.5倍の差
マイクロプラスチックは環境の至る所にあって、私たちの体内にも入り込んでいる。このほど3月6日付けで医学誌「The New England Journal of Medicine」に発表された新たな研究により、血管内にたまった微小なプラスチック粒子と、心臓発作(心筋梗塞)、脳卒中、死亡のリスクの高さが初めて関連づけられた。 ギャラリー:炎症を抑える食べ物とは、病気の進行やがんの治療にも影響 写真6点 脂肪などでできた沈着物であるプラークが動脈の壁の中にたまる「アテローム性動脈硬化」になると、血管の壁が厚くなるため体の各部への血流が悪くなり、脳卒中や狭心症、心臓発作のリスクが高まる。プラークは通常、コレステロール、脂質、細胞からの老廃物、カルシウム、フィブリンと呼ばれる血液を固めるタンパク質からできている。 今回の研究は、頸動脈(首の動脈)のプラークを取り除く手術を受けたアテローム性動脈硬化の患者304人について行われた。プラークの中に微小なプラスチック粒子が含まれていることが確認された患者もいた。 今回の論文によると、切除したプラークにプラスチックが含まれていた人は、含まれていなかった人に比べて、その後の約3年間に心臓発作や脳卒中を起こしたり何らかの原因で死亡したりする割合が4倍以上も高かったという。 プラスチックに含まれる化学物質が溶け出し、ホルモンなど内分泌系の働きを乱すといった健康問題を引き起こす可能性があることは以前から知られていたが、「プラスチック粒子そのものが人間の健康に影響を及ぼすことが示されたのは、今回が初めてです」と、米ボストン・カレッジの小児科医で公衆衛生疫学者のフィリップ・ランドリガン氏は言う。なお、氏は今回の研究には参加していない。 これらの微小なプラスチックが血管内に入り込んだ経緯は特定できなかったと、論文の著者の一人でイタリア、カンパニア・ルイジ・バンビテッリ大学の心臓専門医であるジュゼッペ・パオリッソ氏は言う。プラスチックは、空気中から吸い込んだり食物や水から摂取したりと、さまざまな方法で体内に入る可能性がある。 米バンダービルト大学の心臓専門医で血管医学の専門家であるアーロン・アデイ氏は、微小なプラスチックが生体に及ぼす影響に関する既存のデータは、ほとんどが動物実験から得られたものだと言う。 「微小なプラスチックが血流に乗り、特定の臓器に入り込む可能性があることは以前から分かっていましたが、今回の研究は、重大な疾患を持つ人のプラークにそれを見つけたという点で大きな違いがあります。これは、マイクロプラスチックを人間の疾患と関連づける、画期的な研究です」