〈解説〉マイクロプラスチックが心臓発作や脳卒中、死亡と関連 人体への影響示す初の証拠
マイクロプラスチックと心血管疾患との関連
この研究では、頸動脈にたまったプラークを取り除く「頸動脈内膜剝離術」という手術を受けた304人の成人について行われた。頸動脈のプラークをそのままにすると、一部が破れて細い動脈をふさぎ、脳卒中になるリスクが高まる。 研究者たちが頸動脈から除去したプラークに含まれるプラスチックを調べたところ、58%の患者からポリエチレンが、12%の患者からポリ塩化ビニルが検出された。 電子顕微鏡での観察から、プラークに含まれる白血球の一種であるマクロファージの中に、縁がギザギザした異物があることもわかった。マクロファージは、体内に侵入した微生物などの異物を取り囲んで食べて殺す役割を担っている。 研究チームはその後、257人の患者を2~3年間、追跡調査した。その結果、プラークに微小なプラスチックが含まれていた患者が心臓発作や脳卒中を起こしたり、何らかの原因で死亡したりした割合は、プラスチックが含まれていなかった患者に比べて約4.5倍も高かった。 研究者らは、微小なプラスチックが心臓発作や脳卒中の原因になるかどうかやそのしくみについては、現時点では明言できないと言う。しかしパオリッソ氏は、1つの可能性として、マクロファージが体内から異物を排除しようと集まってきたときに、微小なプラスチック粒子が炎症を引き起こすことが考えられると言う。プラークの中の炎症が増えると、プラークが破れて、その破片が血流に乗る可能性がある。 アデイ氏は、マクロファージがプラークの形成に関わっていることや、炎症が心血管疾患に重要な役割を果たしていることはよく知られているので、炎症仮説は妥当だと言う。「これらの粒子がプラーク内でより多くの炎症を引き起こしているのであれば、プラークは将来、問題を引き起こしやすくなるかもしれません」。とはいえ、現段階では断定できない。 プラスチック粒子に含まれる化学物質が、どの程度の害を及ぼすかも不明だと、米ニューヨーク市の医療機関ノースウェル・ヘルスの産業医であるケネス・スペース氏は指摘する。「プラスチックは多様な化学物質からできています。その中には、体内で作られるホルモンの働きを乱す内分泌かく乱物質や、炎症を誘発する物質なども含まれています」 これらの化学物質は私たちの体内でさまざまな影響を及ぼしている可能性があるが、臨床試験が行われる医薬品とは違い、ヒトを被験者として厳密な実験を行うわけにもいかない。スペース氏は、「残念ながら、私たち全員が人体実験に参加しているようなものです」と話す。 プラスチックは環境に広く存在しており、個人ではさらされる量をあまりコントロールできないが、定期的な運動や健康的な食事、禁煙など、心血管疾患のリスクを減らす生活習慣を取り入れることはできる。 体内の微小なプラスチックに含まれる環境汚染物質が、心血管疾患やその他の病気にどの程度影響しているかははっきりしていないが、「健康的な食事や運動などの生活習慣を取り入れることは、家にあるペットボトルの本数を気にするよりも健康に大きな影響を与えるでしょう」とスペース氏は言う。