60代以降は「太り気味」くらいがボケにくい。脳を老けさせない意外な習慣
高年期は「痩せる」ことへの意識を変えたほうがいい
では、肥満は脳の血管などに悪影響があるのか。これは欧米のデータですが、中年期までは肥満というのは動脈硬化を進める原因で、非常に身体によくないのですが、それ以降は太っていようが、痩せていようが、動脈硬化との因果関係はないということもわかっています(※)。 ※Fliotsosら Journal of American Heart Association2018 ですから、高年期になったら太っていても認知症と動脈硬化を過剰に心配しなくても大丈夫だといえます。 ただ、体重が増えることによって身体にガタはきます。身体機能が低下し、ひざが悪くなって股関節にも影響が出る、結果的に日常生活の動作がスムーズに行えなくなるというリスクはあります。ですから、やはり身体を動かすのがきつくなるような「極端な肥満はよろしくない」といえるでしょう。 中年期までは極端な肥満にならないようダイエットを心がけたほうがいい。ただ、これまで医学のエビデンスとしては、高年期に入った後、60歳を過ぎたあたりからは、太っているということはリスクにならず、どちらかというと痩せるということのほうが健康リスクが大きいのです。 60歳を過ぎたら、「痩せる」ことへの意識をガラッと変えたほうがいいでしょう。
「飲酒は適量ならいい」は間違い?
脳にとってお酒はいいものでしょうか、悪いものでしょうか。 「酒は百薬の長」ということわざもあり、今までストレス解消やリラックス効果、ワインのポリフェノールなど、プラスの効果も喧伝されてきました。 しかし、飲酒が脳にとって想像以上に悪影響を及ぼすことが、昨今の研究で明らかになっているのです。 その悪影響とはなにかというと、脳の萎縮です。イギリスの研究チームが、気になるレポートを発表しました(※)。 アルコール摂取量が増えるほど、脳の海馬の萎縮リスクが上昇するというものです。平均年齢43歳の人たちを対象に、30年にわたってアルコール摂取量と脳の変化を調査した結果、アルコールを飲まないグループに比べると、適量飲酒のグループの海馬の萎縮リスクは約3倍、多量飲酒のグループは約6倍に高まることが判明したのです。 ※Topiwalaら British Medical Journal 2017 「海馬」は記憶を司る器官です。海馬の機能が低下すると、新しいことが覚えられなくなります。さらに日常的にお酒を飲みすぎると、慢性的な記憶喪失を引き起こす恐れすらあるのです。 もうひとつ、お酒と脳に関する論文を見てみましょう。フランスの研究グループが、アルコールの飲みすぎは、あらゆるタイプの認知症を発症する可能性の高い危険因子であると発表しました(※)。特に早期発症型認知症のリスクが高まるというのです。 ※BurtonとSheron The Lancet 2018 フランスの約3000万人の医療記録を解析したという大がかりなもので、アルコール依存症がある人は、認知症リスクが男女とも約3倍も高まることが報告されました。 また、全体の約5%にあたる約6万人が65歳未満に発症する「早期発症型認知症」と診断されました。さらに、診断を受けた患者の半分以上がアルコールの飲みすぎと関連していることも判明したのです。 お酒を飲みすぎた後に記憶が飛んでしまう状態は、アルコールによって引き起こされる「アルコール使用障害」というものですが、アルコールを過剰に摂取することが恒常的になると、アルコール使用障害だけではなく、認知症のリスクも高まってしまいます。 「酒は百薬の長」という説は、近年の研究では残念ながら否定すべきものといえるでしょう。