「ああ、トヨタも不正か」とため息をつく前に、自動車メーカーはセコいが、国交省はアタマが硬いと思ってしまう
日本の認証制度のあり方への疑問が。文句があるなら互いに話し合えばいい
日本ローカルの基準はけっこうある。代表的なものは車両寸法の測り方だ。クルマのカタログを見ると、5ナンバー乗用車の全幅はおしなべて1695mmである。しかし、同じクルマの輸出先では寸法が微妙に違う。 その理由は、運輸省の外郭団体だった交通公害研究所(現在は独立行政法人自動車技術総合機構・交通安全環境研究所)が新型車審査を行なうときに用いる審査基準に「設計値において、施行規則に対し5mm以上の余裕があること」と書かれているためだった。自動車製造誤差は「5mmはある」という考え方のためだ。 道路運送車両法施行規則第2条には小型車は長さ4.70m以下、幅1.70m以下、高さ2.00m以下と書かれている。長さ4.70m以下というのだから4.699mでもいいはずだが、そうではない。1695mmなのだ。 道路運送車両法には自動車の寸法の規定はない。寸法を定めているのは道路運送車両法施行規則であり、これは法律ではなく「規則」だ。そして、実際に自動車の販売を許可するために行なう新型車審査では、この規則に定められた寸法について「5mm以上の余裕を持たせなさい」という「審査基準」が用いられる。審査基準は「5mmマイナスで設計すべし」と解釈しなければならない。この慣習は現在も続いている。 実査の寸法測定は、新型車審査に実車を持ち込んだOEMの担当者が行なう。1696mmなら1695mm、1697mmでも1695mm。しかし1698mmだと1700mmになる。二捨三入である。「はい、全幅は1695mmです!」と叫ぶと、国交省の係官がそれを書き記すのだ。 こうした前近代的な方法にOEMは「付き合っていられない」だろう。しかし許認可を握る国交省には逆らえない。しかも、新型車審査は時間がかかるから心証を悪くして「順番後回しの刑」に遭ったらたまらない。 今回のトヨタ、ホンダ、マツダの試験不正を調べると、日本の認証制度のあり方への疑問が少なからず湧く。文句があるなら互いに話し合えばいい。「厳しい試験で国内試験を代用してもまったく問題はない」ことを証明すればいい。たいがいが昭和20年代に制定された自動車基準認証関連ルールの大もとは、いまとなってはクソ古臭い。 今回の一連の「試験値不正」を国交省が一方的に糾弾するだけだとしたら、いまOEMが望んでいるOTA(Over The Air=無線方式)による自動車のソフトウェア・アップデートなど欧米が当たり前にやろうとしている手段についての遅れを、日本はなかなか取り戻せないだろう。時間のロスはビジネスの損失に繋がる。 とはいえ、OEM側もたしかにセコい。現場の法解釈も大いに甘い。前例主義で頭の固い行政とセコい自動車業界。これでは日本の将来が心配だ。前向きな解決策へ導いてもらいたい。何らかの委員会を立ち上げ、年内に結論を出す。これくらいのスピード感で誤解と怨恨を解くべきである。これをチャンスととらえなければ損だ。 いっぽう衝突試験は実際にクルマをぶつけるからお金がかかる。なのに試験データには±10%のズレが当たり前に出る。いまや世界的に開発時点では衝突試験は行なわず、シミュレーションで性能を詰めるのが当たり前であり、実際の衝突試験は最後の「確認」に過ぎない。日本は自動車基準認証の国際協調に1980年代から取り組んできた。旧運輸省の時代から現在まで、日本車が海外で販売しやすいように、各国でバラバラだった法規の統一という作業に率先して取り組んできた。その結果、現在の日本の自動車認証は8割程度が「国際協調」されたUNルールになった。しかし、前述したように認証プロセスには旧態依然の「日本ローカル」が残っている。この点もダブルスタンダードである。
牧野 茂雄