RIZIN大晦日決戦で朝倉未来と戦う筑波大学院卒の異色サラリーマンファイターが語る「番狂わせを起こす条件」とは?
だが、朝倉自身も、その点を認識しており、今回は斎藤とのリベンジマッチ、その先にある格闘技イベント「MEGA2021」でのプロボクシングの無敗の5階級制覇王者、フロイド・メイウェザー・ジュニア(43、米国)とのビッグバウトを実現するために絶対に負けられない試合として位置づけている。気負いはあれど油断はない。 「正直、彼のこと(モチベーション)は分からない。自分のモチベーションは、最強を目指す過程の一つという認識もない。目の前の試合に勝ちたいと思っている。こいつより弱いと思われたくないなと。大勢の人の前で良い大人がみっともない姿を見せたくない」 ドミネーターは自らのモチベーションに置き換えて説明した。 「自分は格闘技をやっていれば試合をしなくてもいい人間。でも結局、試合に勝つ時の幸福感が忘れられないジャンキーになっている。負けることの恐怖も一方である。本能的に見栄を張っているところがある」 ドミネーターは大手食品会社に勤めているエリートサラリーマンで、プロファイターとして格闘技だけに生活のすべてを賭けているわけではない。ハングリーさという点では、朝倉とドミネーターは似たような立場にある。 だからドミネーターは「端的に言うと、格闘技に対して真摯じゃない。2人共、使える時間の中で全力で格闘技をやっているが、格闘技に本当に真摯に向き合うというのは他を犠牲にするくらいの取り組みじゃないとならない。それが格闘技に対する一番の礼儀。そういう意味から考えると2人とも真摯とは言えない」という。 逆に言えば、こういう格闘技へのリスペクトがあるからこそ、彼らは、トップファイターでいられるのかもしれない。 ただドミネーターの名は格闘技ファン以外には知られていない。知名度も含めて、今回は朝倉の再起のための“噛ませ犬”である。だが、リアルファイトにおいては、無名のファイターが大物を食う“番狂わせ“がしばしば起きる。斎藤戦もそう。二度あることは三度あるとも言える。 ドミネーターにストレートに聞いてみた。 ――あなたは今回の戦いでアンダードッグ(噛ませ犬)です。番狂わせを起こす条件はなんだと考えますか? 「流れだと思う。全体的な空気感。本人の空気感もそうですし、見ている人の空気感、大会当日の流れも、もしかしたら関わってくるかもしれない。その空気感というのが意外な事を起こすために必要なんじゃないかなと」 その空気感を作るのは、判官びいきとも言えるファン心理であり、163万人の登録者を誇る人気YouTuberゆえについてくる「アンチ朝倉」の声なのかもしれない。 だが、ドミネーターは「アンチ朝倉」が“ジャイキリ”の流れを作ることは拒否した。 「自分は朝倉選手のアンチは好きではない。前回のタイトルマッチの際も斎藤選手が勝ったからアンチが調子に乗っていたが、それは違うと思う。人に乗っかるのはダサい。朝倉選手のアンチが自分の味方だとは思わない。だから(アンチは)ウザい」 せっかくの流れを変えてしまうような発言だが、ドミネーターは、こう続けた。 「流れを作るのは、 観客の期待感を育てられるかだと思う。“こいつ、なんかやりそう”という空気を自分がいかに作り出せるか。それを周りに感じさせられるか。当日、自分に期待してくれている人がどれだけ増えているか、というところもひとつの要素」 そういう意味では公開スパーで見せた動きから「何かやりそう」の空気を温める作業が始まっているのかもしれない。 この日も仕事を終えて夜7時からの公開練習に間に合わせた。ドミネーターは仕事納めが試合前日の30日のため、RIZINの会見がある29日と30日に有給を取り替わりに26日に休日出勤するという。 「自分は会社員だから、それが当然。そのなかで強くならないと今後も続けられない」 異色の筑波大大学院卒のサラリーマンファイターは大晦日に世間をあっと言わせることができるのか。