F1分析|角田裕毅イモラでの10位は喜ぶべき結果? ヒュルケンベルグに先行されてしまったことで、タイヤの”美味しいところ”が使えなかった事実
RBの角田裕毅は、F1エミリア・ロマーニャGPの決勝レースを10位で終えた。これで今季4戦目の入賞。獲得ポイントを15に伸ばすことができた。しかし今回のグランプリは、レース中のペースや序盤のポジションを見ると、少なくとも9位にはなれたレースだったように思えるが……データで検証してみよう。 【リザルト】F1第7戦エミリア・ロマーニャGP:決勝結果 角田は7番グリッドからスタート。しかしメルセデスのルイス・ハミルトンとハースのニコ・ヒュルケンベルグに抜かれ、9番手でレース序盤を戦うことになった。 本来の角田のペースは、ヒュルケンベルグのそれと比べれば圧倒的だったはずだ。しかしハースのストレートスピードは伸びており、角田はなかなか攻略することはできなかった。角田としてはこの状況は、今季ここまで散々苦しめられてきたことだ。 そして下位のマシンが早めに1回目のピットインをしたこと、さらにはヒュルケンベルグをアンダーカットするために、角田は12周を走り切ったところでピットイン。スタート時に履いていたミディアムタイヤを早々に捨て、ハードタイヤを装着した。その1周後にヒュルケンベルグがピットインしたが……彼がコースに戻った時には、角田が先行していた。アンダーカット成功である。 ただこのアンダーカットが、実はあまりよくない選択だったようにも見える。
決勝レースペースから見えてくる、タイヤの美味しいところを使えなかった角田裕毅
上のグラフは、エミリア・ロマーニャGP決勝レースで8位に入ったセルジオ・ペレス(レッドブル/紺)、9位ランス・ストロール(アストンマーティン/緑)、10位角田(青)、11位ヒュルケンベルグ(ピンク)の4人のレースペースを、折れ線グラフで示したものである。グラフの縦軸の上にいくほどペースが速く、下にいくほどペースが遅いということになる。 この4人のうち、ペレスだけがハードタイヤを履いてスタート。他の3人はミディアムタイヤを履いてのスタートだった。 前述の通り角田とヒュルケンベルグは早々にピットインし、ハードタイヤに履き替える戦略を採った。一方で同じミディアムタイヤを履くストロールはステイアウト……結局このミディアムタイヤで37周を走った。 このストロールがピットインするまでのペースを見ていただきたい。角田、ヒュルケンベルグ、ストロール、ペレスそれぞれのペースが、ほぼ同じだったのがお分かりいただけるだろう(グラフ上の赤丸の部分)。 通常ならば、より新しいタイヤを履いているドライバーの方が、速いペースで走れるはず。ミディアムとハードのパフォーマンス差があってもだ。しかし角田とヒュルケンベルグのペースは、古いタイヤを履いたままのストロールとほとんど一緒……つまり新しいタイヤを履いた意味がほとんどなかった。 角田は、ヒュルケンベルグのアンダーカットを確実に成功させるために、タイヤ交換直後の14周目だけは一気にペースを上げたが、その後はペースが落ち、ストロールと変わらないペースになった。19周目にはまだピットストップしていなかったウイリアムズのローガン・サージェントに追いつき、この攻略にも手間取るというタイミングもあったものの、抜いた後のペースはストロールと変わらないものだった。 もちろん、レースを最後まで走り切るためにタイヤマネジメントをする必要があったという側面もある。その結果レースの最終盤にも1分21秒台というペースで走ることができたわけだが、このペースはレーススタート直後とほぼ一緒だった。 逆に角田と同じミディアムタイヤでスタートしながら、第1スティントを引っ張り、37周目にピットストップを行なったストロールは、ハードタイヤを履くと2秒近くペースを上げた(グラフ上の青丸の部分)。そしてヒュルケンベルグと角田をパス。予選での低迷を取り返し、9位入賞を果たすことができたわけだ。 角田とヒュルケンベルグが前からいなくなったことも、ストロールにとっては好材料だった。クリーンエアを得て、楽に走るチャンスを得たのだ。 このことは、RBのテクニカルディレクターであるジョディ・エジントンも認めている。 「スタートで順位を落としてしまったため、リカバリーのために予定よりも早めにピットストップするしかなかった。これによりストロールには、トラフィックが少ない状況で長い距離を走るチャンスが生まれ、彼はこれをうまく利用したんだ」 ただヒュルケンベルグのアンダーカットに固執せず、当初のプラン通りにミディアムタイヤを使っていた場合、1回目のピットストップの時点で多くのマシンにアンダーカットを許していたことだろう。そして新しいタイヤを履いた後、コース上で彼らを攻略せねばならなかった。 ただそれは簡単ではなかった可能性がある。その要因は、冒頭でも触れた最高速だ。 実は角田の決勝でのスピードトラップでの最高速は、全20台中最下位の291.6km/hだった。これは、最速だったケビン・マグヌッセン(ハース)の304.6km/hよりも13km/hも遅いものだった。角田が直接ポジションを争ったヒュルケンベルグの最高速は293.3km/hだったため、その差は確かに小さい。しかしマグヌッセンのスピードを見れば、ヒュルケンベルグも同等のポテンシャルを持っていると見る方が妥当(実際予選ではヒュルケンベルグが最速だった)で、RBとしてはコース上で抜くのは簡単ではないのは明らかだった。つまり角田としては、ヒュルケンベルグに先行されてしまった以上、戦略でヒュルケンベルグを攻略しなければならず、アンダーカット作戦を採るしかなかった。 そういう意味では、チームや角田も発言しているように、スタート直後のターン2でヒュルケンベルグに先行されたことが、今回のレースの全てを決したと言えそうだ。少なくともヒュルケンベルグに先行されていなければ、ストロールはもちろん、ペレスとも互角にやりあえていた可能性がある……そういう意味ではポジティブなレースだったと言えるかもしれないが、もう少し上のポジションも狙えた可能性があることを考えれば、悔しさも残る1戦だったと言えよう。
田中 健一