「耐震、全然ダメです」そして誰もいなくなった…世田谷・違法高級マンションで住民らを襲った「悲劇の数々」
そして誰もいなくなった
こうして数ヵ月におよぶ協議の末、ようやくマンションの建て替えが決定した。 「建て替えも東急は『社内で検討した結果、同じ建物が建設可能との判断が出た』と言い出して、目が点ですよ。組合も『いやいや、そもそも構造計画に問題があった可能性が高いから、同じモノは無理ではないか』と伝えましたが、東急は聞く耳を持たず。結局、同じ建造物を建てるということで計画がスタートしました」 合わせて行われたのが住民らの転居だった。東急不動産はマンションへの安全性が担保できないという理由から全住居の避難を提案。2021年には住人全員が退去を完了させ、建物は鉄骨補強が行われた。 かくしてフロレスタは文字通りの「開かずの高級マンション」へと様変わりしたのである。だが、変わったのは建物の無人化だけではない。欠陥住宅だったレジデンスはある出来事をきっかけに違法建築物へと姿を変える。 「建て直し計画にあたり東急不動産は2021年12月に再度、敷地の測量を行いました。しかし、いくら待っても肝心の測量結果を出してこない。設計を請け負った東急設計コンサルタントも痺れを切らして、測量図を催促する始末でした。東急不動産は『出します』と口ではいうものの、その後も数ヵ月にわたって測量図を提出しない。結局、組合側が『いい加減にして欲しい。測量図がないと話が進まない』と急かして、やっとの思いで図面を提示させました」 だが、そこに記されていたのはマンションが「違法」であることを裏付ける決定的な証拠だった。
説明会には社長らも出席
「測量図を受け取った設計会社の担当者から『大変なことが起きている。北向きが違う』と組合の関係者に連絡が入りました。実際に組合関係者が測量図を確認すると真北が実際の建物よりも西に14度ズレていることが発覚。これによりフロレスタは建築基準法の高さ制限を超えている建造物となりました。 仮にマンションを正しい方角で建てるとなると部屋数は現在の49戸から30戸程度しか確保できないという試算結果がこの時点で出ています」 一転して違法建築という烙印を押されてしまったフロレスタ。組合関係者はすぐに東急不動産へと連絡し、事情を説明。すると問題発覚から1ヵ月後となる2022年9月、東急が切り出したのは「住民の方々に説明する場を用意したい」という言葉だった。 「とは言っても発覚から1ヵ月しか経っていない。一体何を説明するのか意図を図りかねました。東急側は『社長を交えた社内調査委員会を作った』とは言うが、肝心の内容については『説明会で話をします』と繰り返すだけでした」 同月、2日間にも及ぶ住民説明では東急建設の寺田光宏社長(62)や同社の副社長、さらに東急不動産からは当時の岡田正志社長(62)を筆頭に常務なども出席し、謝罪が行われた。しかし、違法建築の原因については到底、住民らが納得できるものではなかったという。