「耐震、全然ダメです」そして誰もいなくなった…世田谷・違法高級マンションで住民らを襲った「悲劇の数々」
「すべての数字が合わない構造」
「スリットの確認をするにあたり、民間会社とともに区の確認申請の際に提出したマンションの構造計算書と構造図を見比べてみました。構造計算書は簡単に言えば建物を作る際に『こういう構造で作れば大丈夫です』とコンピューターによって試算されたデータ図面で、構造図はその計算書を元に書き起こしたもの。 すると計算書にあるスリットや柱に入っている鉄筋の数と構造図に記載された数字が合わない。計算書では合計110ヵ所のスリットが構造図になると183ヵ所になっている。これでどうやって区の申請が下りたのか不思議で仕方がありませんでした」 図面の調査と並行して行われたのが実際の建物に入っているスリットの確認だ。2020年1月、フロレスタの大規模検査が行われる。だが、ここでも住民らと東急との攻防戦が繰り広げられる。 「今度はすべての階をくまなく調べました。一般的にスリットは30ミリ以上ないと効果がないと言われていますが、フロレスタは10ミリ程度の幅しかなかった。東急の担当者らはスリットの幅を調べるためにアイスピックを使って図っていましたが、住民が確認すると斜めに刺して幅の数値が広くなるような状態で計測していた。 その場で組合関係者が『これ、10ミリもないからダメですよね』と指摘すると担当者も『はい』と答えていました。そもそもスリットが入っていない箇所も複数確認されています」 こうした図面確認、そして現地調査で判明したのは住民にとって耳を疑う内容だった。
「誰が本当の構造を理解しているのか」
「まず構造計画書と構造図のスリットや鉄筋の数が合わない。そこにきて今度は構造図では183ヵ所あるはずのスリットが実際には126ヵ所しか入っていなかった。つまり計算式のもと『これで大丈夫です』とコンピューターが算出した構造計画書から書き起こした図面がなぜか変わってしまい、さらに建築時には構造図とも違うマンションが建てられていたということになります。 もはや誰がこのマンションの本当の構造を理解しているのか分からない状態になっていたんです。それは同時に誰もフロレスタの安全性の担保ができていないことを意味しました」 この結果を受け、東急不動産と東急建設は2020年6月に住民説明会を実施。構造計算を再試算した結果を提示した。 「説明では『構造計算を再試算した結果、一次設定の判定ではNGが出たが、二次設定の判定ではOKが出た』とのことでした。一次設定はいわゆる中規模地震で一部崩壊するかどうか、二次設定は大規模地震で建物が崩壊、倒壊しないかを計る基準になります。東急側は『マンションにはスリットが何ヵ所入っており、倒壊崩壊の危険はないとの判断がコンピューター上でも出ている』という話でした」 しかし、この計算を不審に感じた組合側が検証を求めると、ここでもまた驚くべき事実が次々と露呈していく。