60歳から独学…SNSで注目集めた「隠れ巨匠の人形」が奈良へ、「企画展」で作者の夢叶う
■ 永瀬さんの挽歌の世界観を、全作品撮影OK
展示は、永瀬さんの人形と挽歌(ばんか)の世界観を通して、古代の奈良の歴史を知るとともに、万葉集に歌が残る歴史上の人物たちの人生や想いに触れる内容だ。 「並んだ人形はおしなべて幸せな人はいません」と永瀬さん。人形制作へ駆り立てた原点は、政争に巻き込まれ19歳の若さで処刑された有間皇子と天武天皇を父に天智天皇の皇女・大田皇女を母に持ち、将来を嘱望されながら謀反の罪で死を賜った大津皇子、そして、愛する弟を失った絶望を万葉集に残した姉の大伯皇女(おおくのひめみこ)だという。 万葉集研究の第一人者・中西進の本の表紙を飾っていた人間国宝の人形作家・鹿児島寿蔵(かごしまじゅぞう)作の有間皇子人形に感銘を受けて、独学で人形制作を始めた永瀬さん。狂った振りをしなければならないほどの陰謀による恐怖、護送され死と向き合う絶望、その哀悼の気持ちを結晶として形に表し、この世に残してあげたいとの思いで制作した有間皇子を観ることができる。 人形は1体制作するのに3カ月ほどかかり、細部まで作り込まれ、納得がいくまで何度もつくり直すという憂いを帯びた各人形たちの独自のまなざしから目が離せない。その人形(歴史上の人物)の感情を表し切るため、撮影角度や柔らかな光を当てるなど、光の当て方にもこだわる永瀬さんは自ら写真も撮る。 同展の人形はすべて撮影が可能で、永瀬さんは「ぜひ、人形の世界観が伝わるような写真を撮影していただければ嬉しいです」と語る。 同展について岩戸さんは、「20年以上展覧会をやってきましたが、これほどまで人と人との繋がりを感じたのは初めてです。皆さんの想いをつなげたというパズルがパチッとはまった気がします」と万感の思いを込めて語った。 企画展『万葉挽歌(レクイエム)―人形からみる古(いにしえ)の奈良―』は、国営平城宮跡歴史公園「平城宮いざない館」企画展示室で9月1日まで。観覧無料。8月12日には今回の出来事についてのトークショー「小さな出会いが結ぶ大きな物語」が開催予定。 取材・文・写真/いずみゆか