問題を解くのではなく問題を作りだすチームを――はやぶさ2総責任者のチームマネジメント
若きリーダーが目指したのは、問題を解くのではなく問題を作れるチーム
――チームメンバーは総勢600人以上。大規模かつ、未踏プロジェクトのチームマネジメントを行う上で、どのような点を重視していたのでしょうか。 就任当時、私は39歳で、JAXAのプロジェクトマネージャとしては最年少でした。チーム内には、私より年齢が上の方もいましたし、若手もいます。ですから、リーダーが道を示して、それにみんながただ付いていくだけのチームはそぐわないと考えました。 私はリーダーですが、リーダーが答えを知っているわけではないんです。はやぶさ2が行くリュウグウという星は、私だって初めて見るし、行ったこともない。一体どんな問題が待ち受けているかは全く分からないわけです。そのため、メンバーそれぞれが事前に問題を作りだし、それに対してみんなで答えを見つけていく、つまり「問題を解けるのではなく、問題を作れるチーム」を目指しました。 ――問題解決の際、チームリーダーとしてどのような振る舞いを心がけていましたか。 メンバーそれぞれが問題を提示してきた際、解決策として様々な案が出てきます。それぞれが高い頭脳を持ったプロフェッショナルの集まりですから、どの案がベストかを決める過程で衝突することもありました。 しかし、意見が割れようとも、私は黙っていることを心がけていました。リーダーがすぐに方向性を示してしまうと、みんなそちらに流れてしまいがちです。チーム内のヒエラルキーや決定権の順番で物事が決まるのではなく、平場でみんなが議論し、ロジカルに物事が決まっていくプロセスを必ず踏むようにしていました。 また、メンバーには「ルールはどんどん破って良い。責任はプロジェクトがとるから、どんどん挑戦してほしい」と伝え、良いアイデアがあれば積極的に採用しました。メンバーが消極的にならない雰囲気を作ったことで、後に思いもよらない解決策がたくさん生まれました。
成功の裏側に「失敗を含めた訓練」
――はやぶさ2完遂の裏には、綿密な事前の準備があったといいます。 宇宙業界ではよく「失敗するな」と言われます。失敗しないためによく考えろ、と。これはある意味正しいですが、言い方を間違えるとチームメンバーが萎縮してしまいかねません。我々のチームはあらゆる困難に対して冷静に答えを見つけ出し、対処する能力が求められます。 事前準備として、はやぶさ2と同じ挙動をするシミュレータを用い、運用訓練を積みました。シミュレータ上では、「神様」と呼ばれるチームがわざとはやぶさ2にトラブルを起こします。それに対し、管制室のメンバーは、着陸を中止すべきかどうか、どうしたら続行できるかといった様々な判断を迫られる。 実際、かなりの数の「失敗を含めた訓練」をしました。しかし、こうした経験を繰り返していくうちに、管制室のメンバーは自ら「神様」の手口を読むようになり、事前に予測して大きなトラブルに繋がらないよう対処ができるまでに成長していったのです。 ――実際にリュウグウに到着後、問題が生じたそうですね。 最も想定外だったのは、リュウグウの地形が険しすぎてはやぶさ2が着陸できる場所が1つも見つからなかったことです。手ぶらで帰るわけにはいかないので、はやぶさ2の当初のスペックを大幅に上回る性能を要求し、何とか精度良く着陸する方法を見つけ出さなくてはなりませんでした。 非常に苦しかったですが、事前の訓練のおかげで、チーム全体で冷静に対処することができたと思います。当時の管制室の映像を見ても、みんな穏やかな顔をしていました。