「転職前提にキャリアを考える」時代だからこそ育てたい部下の“We感覚” 「部下を辞めさせない」と頑張るより大事なこととは?
この感覚を得られたときに見られるのが、自社のことを話すときにおける「うちの会社は」という言い方から、「私たちは」という言い方への変化だ。これは、個人人格と組織人格の境目が曖昧になり、自分と会社が「一体化」しつつある証拠だといえる。 筆者は、この感覚を「We感覚」と呼んでいる。「We感覚」を持っている若手社員は、ちょっとやそっとのことでは辞めなくなる。なぜなら、こうした若手社員は会社へのコミットメントが高まっており、「退職することは自分が大切にしてきたことを否定することになる」と感じるようになっているからだ。
もちろん、個人と会社は別人格なので、原理的に一体化することはない。しかし、自社のことを「私たちは」と表現するようになったとき、「組織人格が個人人格に入り込んだ状態」になっているのは間違いない。 若手社員の離職を防止し、定着を図りたいのであれば、オンボーディングのゴールを「戦力化」ではなく「一体化」に置くべきだ。「戦力化できたから、もう大丈夫だろう」と思っていると、ある日突然、予期せぬ退職宣言を受けることになる。若手社員の退職を防ぐためには、オンボーディングで「We感覚」を育むことが重要だ。
ただし、若手社員の「We感覚」を育むのは長期戦になる。筆者の経験上、自然に「私たちは」という言葉が出てくるようになるまで、5~10年くらいかかる。 個人と会社は、1つのきっかけである日突然一体化するわけではなく、長い時間をかけて一体化が進み、徐々に「We感覚」が得られるようになっていくのだ。 一般的に、オンボーディングの期間は3カ月~1年程度だとされているが、ゴールを一体化に置くのであれば、5~10年という長期間でオンボーディングを設計する必要がある。
■目的は「部下を辞めさせない」ではない 昨今は、「部下が辞めないよう、優しく接しなければ」と自分に言い聞かせているマネジャーも多い。しかし、そればかりに気を取られていたら、リーダーとして事業を発展させることはできない。 リーダーは、組織のために最善の道を選ばなければいけない。ときには、自らの感情や欲望を抑えて決断を下さなければならないし、部下に厳しい要求をしなければならないこともある。 部下のために良かれと思って言ったことが、素直に受け入れてもらえないときもあるだろう。反発や抵抗を覚えて、辞めていく部下も出てくるだろう。