トランプ2期目で日本に迫る追加関税と防衛費の増額要求:森教授に聞く
日本も追加関税の対象国に
竹中 トランプ氏はこれまで中国が60%、他の国は10~20%の関税をかけるという方針を示してきた。日本も対象になるだろうか。 森 日本は貿易統計ベースで対米輸出から輸入を差し引いた収支は8.7兆円で、対米貿易黒字は第1次トランプ政権の時よりも増えているので、むしろ確実に追加関税の標的とされるのではないか。アメリカ向けの輸出品を持つ会社の大半は、関税によってマイナスの影響を受ける。メキシコ経由で製品をアメリカに輸出している業界は、対メキシコでも25%の関税ができ、大変苦しい状況になりそうだ。日本はここで何ができるか。日本は対米投資額でナンバーワンの国であり、それも5年連続1位のはずだ。その実績をアピールしたり、あの手この手でタフな交渉をしたりして、例えば適用除外を確保することなどが考えられる。 追加関税のみならず、防衛費の増額、そして同盟強靭化予算(米軍駐留経費)の負担増も要求してくるという臆測がある。この3点セットがアメリカ「一国主義」に関わる面での日本への圧力だ。これに対して、もう一つの「優先主義」の観点からは、「反中連合」の強化という文脈で、二国間・ミニラテラルの同盟強化が位置づけられるだろう。この視点では日本は要の国となる。日米の防衛協力は引き続き前進させることになるだろう。したがって、日米の「摩擦」と「協力の促進」、この2つが同時に出てくるのが第2次トランプ政権の特徴になるのではないかと思われる。 欧州と中東は、トランプ政権内の「抑制主義」と「(アジア)優先主義」が合致して、アメリカは「紛争にフタをして引く」という姿勢になる。中東はイスラエル優位で紛争を収束させて、イラン封じ込めに向かうだろう。対イラン政策が具体的にどのようなものになるかはまだ分からないが、過剰にイランを追い詰めれば、核武装に向かうというリスクが出てくるので、そのような事態に至らないような紛争の管理が必要となる。トランプは中東で紛争に巻き込まれたくないので、対イラン政策を無制限に強硬化させるようなことは控えようとするかもしれない。 欧州と中東で「火消し」をして、インド太平洋にピボット(方向転換)することによって、中国との対峙(たいじ)に焦点を絞る、というのが青写真なのではないかと思われる。それがうまくいくかどうかは、これから起こる事に左右されるので、まったく見通しは立たないが、かなり困難な道のりであるのは間違いない。4年間、欧州と中東と中国に同時に関与し続ける可能性も十分ある。 竹中 中国に関税を60%かけるというのは実現可能なのか。 森 アメリカ国内でインフレの心配があり、加減するのではという見方がある。2年後には中間選挙がある。負けて上下院で過半数を失えば任期後半に共和党のアジェンダを推進することが困難になる、というのが政治的な思惑だろう。関税を巡っては、その目的が「アメリカ経済の対中依存度を低下させる」ことにあるのか、それとも「中国から何かを引き出すための手段」なのか、どちらなのかがまだはっきりしないところがある。中国だけでなく、世界各国に「10~20%」の追加関税をかけるという発言をみると、先に述べた通り「製造業の自立」という考え方が根底にありそうだが、特に中国に要求をのませるなり譲歩を引き出すつもりがあるのかどうかは、中国が報復関税をかけてきたときに何らかの交渉に乗り出すかどうかをみれば分かるだろう。中国による「不公正経済慣行」の是正を要求していくこともあるかもしれない。