トランプ2期目で日本に迫る追加関税と防衛費の増額要求:森教授に聞く
「一国主義」で製造業の国内回帰狙う
竹中 経済関係の閣僚では、財務長官に投資家のスコット・ベッセント氏、商務長官に実業家のハワード・ラトニック氏、米通商代表部(USTR)代表にジェイミソン・グリア氏、そして新設される「政府効率化省」トップにイーロン・マスク氏が指名されている。この陣容にどのような感想をお持ちになっているか。 森 ベッセント氏とラトニック氏は、関税に関しては穏健な立場と言われていたが、トランプ氏の基本方針に真っ向から反対しないのではないか。経済面でトランプ氏から絶大な信頼を得たと言われていたロバート・ライトハイザー氏(第1次政権の米国通商代表)は、今のところ閣僚に指名されていない。別途トランプ氏の公式アドバイザーになるのか、二番手として待機するのか、あるいはそもそも公職に就かないのか注目される。また、ベッセント氏とラトニック氏がトランプ氏と政策をめぐって良好な関係を保っていけるのかどうかも注目する必要がある。 トランプ政権の経済政策の柱は、まず関税強化によって製造業の国内回帰を目指すことが基本にある。もう一つは防衛産業の拡充。サプライチェーンに対するセキュリティーも相当程度重視し、そこでの中国への依存を低下させていくことに注力していくだろう。 いずれにせよ、どこまで実現できるかはさておき、基本的な方針はアメリカの製造業をできるだけ戦略的に自立したような状態に持っていくことにあるのではないか。外国、特に中国には依存しないアメリカ経済を目指すことは、「一国主義」の考え方と完全に重なり、デカップリングの再来の本質はそこにあると思われる。極めて分かりやすいロジックだ。金融についてはそうはいかないかもしれない。
ウクライナ停戦仲介に本腰
竹中 トランプ氏はウクライナ戦争を「24時間以内に終わらせる」と繰り返し表明してきたが、大統領就任後、ウクライナ戦争にどのように対応するだろうか。 森 停戦のための仲介は、本腰を入れてやるだろう。トランプ政権が内政と外交、どちらに力を入れて取り組むかという話で行くと、まずは内政のウエートが高くなるのだろうが、その中でも就任から当初1年の外交政策では、ウクライナ戦争への取り組みが目玉となるかもしれない。担当特使にはキース・ケロッグ退役陸軍中将が指名された。「米国第一政策研究所(AFPI)」の政策提言で同氏は、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟凍結、ウクライナへの安全の保証、プーチン大統領が停戦交渉のテーブルについて、非武装地帯を設定し、停戦すれば対ロシア制裁を一部解除するなど、いくつかの要素を含む停戦案を提案している。領土主権に関して当面の間は、プーチン氏の大統領在職期間中は棚上げにするものの、将来的な外交による奪還の可能性を残すとしている。そして、ウクライナが納得する和平協定を締結した場合にしか対ロシア制裁を全面解除しないとアメリカと同盟国は約束する。この和平協定には、二国間の安全保障・防衛を中心にしたウクライナ防衛のための安全保障アークテクチャーも含まれるべきとしている。 ロシアによる不法占領地域の扱いと、ウクライナの安全の保証などについて合意するためには、領土主権と停戦を切り離したり、ウクライナが諸外国の提供する安全の保証の内容に納得するなど、相当な時間が必要になるとみられるので、とても「24時間で」とはいかないのではないか。 竹中 ウクライナのゼレンスキー大統領は、納得のいく条件がそろわなければ停戦に強く反対するだろう。その場合、トランプ氏はどうするのか。 森 ウクライナへの圧力として言われているのは、アメリカによる対ウクライナ支援の停止だ。トランプ氏の考える決着の条件を飲めないなら、「支援を継続できない」、あるいは「徐々に支援を減らす」と圧力をかける。「(アメリカの)議会が承認しない」といった形で、議会をテコにする手法を使うかもしれない。一方、ロシアが交渉を拒むような場合には、交渉のテーブルに引っ張り出すために、一時的にアメリカがウクライナ支援を強化する可能性もある。