「恩返ししたい」 被災の日本航空石川救ったライバル 高校ラグビー
第104回全国高校ラグビー大会は開幕した27日、1回戦で日本航空石川が鹿児島実と対戦した。今年1月に起きた能登半島地震では、拠点を置く石川県輪島市が被災。直後は活動できない事態に見舞われたが、ライバル校の協力などで何とか練習を続けられた。県出身のCTB上野魁心(かいしん)主将(3年)は「地元の輪島に勝利を届けたい」との思いを胸に大会に臨んでいる。 【激闘を写真で振り返る】日本航空石川ー鹿児島実 あの日、石川県白山市の実家で家族と過ごしていた。夕方にいきなり大きな揺れに襲われたが、家や家族は幸い無事だった。しかし時間を追うごとに震源に近い輪島市などで甚大な被害が出ていることが分かった。休日には市内の観光名所の朝市へ仲間と出かけて買い物をするなど、輪島は愛着の深い「第二の故郷」。「いつもお世話になっている人たちのことを思って心が痛んだ」と振り返る。 輪島は最大震度7の地震に襲われた。学校の寮の基礎にはひびが入って安全に住めなくなり、練習場所のグラウンドは一部が地滑りで大きく割れた。とても寮に帰れる状況ではなく、当面は部員がそれぞれの実家などで自主練習を続けることになった。「2月中旬には大会も控えるなか、自分たちがこれからどうなるか本当に不安な日々だった」 そんなときに手を差し伸べてくれたのが、普段はしのぎを削るライバルたちだ。今回の花園大会にも出場しており、長年にわたって合同合宿をするなど親交の深い中部大春日丘(愛知)は、岐阜県にある中部大のグラウンドを使えるよう働きかけてくれた。チームは2月初旬に練習再開にこぎ着け、10日に始まった北信越新人大会では優勝できた。 他の学校も強豪校が集まる合同練習会に招待してくれたり、その交通費や宿泊費を工面してくれたりと支援の輪は広がり続けた。上野主将は「皆さんのおかげで練習の量も質も高めることができた」と感謝する。 しばらくは定まった練習場所を作れなかったが、使われなくなっていた明星大の校舎(東京都青梅市)を先方の厚意で春から借りることができている。当初は一つの広い教室で雑魚寝するなど、部員同士の距離はぐっと近づいた。「大変な1年だったからこそ、例年よりもチームの団結力は強い」と胸を張る。 1回戦は73―8で勝ち、自身も主将としてフィールドでチームを鼓舞した。来年の1月1日で能登半島地震から1年を迎えるのを前に、部員たちは特別な思いを持って大会に挑んでいる。 「このまま勝ち進み、1月1日の3回戦で輪島や石川の人たちを勇気づけられる勝利を届けたい。その先の優勝を目指し、今年お世話になった全ての方々に最高の恩返しをしたい」【郡悠介】