直木賞作家が仕掛けるシェア型書店、1号店は初月から黒字に
名を残す武将はM&Aを繰り返してきた
町の喫茶店も、町の本屋さんと同じく、経営者が高齢になったり、利用客が減ったりして、消えゆく運命にさらされています。事業継承者を探しているところもありそうですよね。しかし、そういうことを執筆と並行して考えていらっしゃるんですか。 今村:自分でも思うんやけど、発想が作家じゃないよね。けど、冷静に考えたら、歴史上の武将ってM&Aの元祖じゃないですか? 自分の力とお金を使って勢力を広げていくことと同時に、地元の有力な寺社、豪族を取り込んで、うまいこと版図を広めていくわけだから、僕がやっていることは、ある意味、武田信玄と一緒よね。いうたら「きのしたブックセンター」(大阪・箕面市)も、あれはM&Aで僕が経営するようになったんですから。 まさしく「きのしたブックセンター」は事業継承で、今村さんが経営者に就かれました。そこまで事業に「も」注力する理由は何なのでしょうか。 今村:まず「ほんまる」では、この新時代の書店スタイルがスケールしていくことを念頭に置いていることです。 僕自身、実際に箕面と佐賀で町の書店を経営していて、肌で感じるのは、本好きは内側のサークルに閉じこもりやすいことです。 なんとなく分かりますが……。 今村:本、書店の業界には、本を至上とする書店原理主義みたいなものが漂っていて、「ナンボのビジネスにできますか?」みたいな話は、表立ってしてはいけない空気がある。「ほんまる」みたいな挑戦も、鬼っ子扱いされがちなんです。一方、シェア型書店の業態が日本各地に登場する中で、ビジネスのレベル感はバラバラです。このままじゃ一般化する前にニッチな世界で終わってしまう、という心配が僕には1つあります。 インディーズ的で、閉じている雰囲気が好き、という本好きの心理は私も分かりますが、関東、関西の棚貸し書店、シェア型書店を回ってみたところ、活気のあるお店は少数でした。あまりにインディーズすぎて、引いてしまうところもありました。 今村:それは、趣味的な方向を極めていくと、排他的になってしまうからなんですよ。僕がシェア型で意図しているメジャー化、大衆化路線に対しては、インディーズの勢力から反発、批判がきっと起こることでしょう。でも、自分の世界に閉じこもっていては、書店業界は救えないと強く思っているんです。 大都市では大手チェーンのメガ書店があるけれど、地方の人口5万人以下の町では、こうして話している間にも、書店が消えています。僕は「ほんまる」をスケールしていくことによって、そのような地方でも、書店が成立するようにしたいんです。 ●改革ができなかったゆえの多様化かもしれない 前回の今村さんへのインタビューをきっかけに、出版・書店業界のことをあらためて勉強しました。すると、不思議なねじれがそこにはありました。 町の書店はどんどん姿を消しているけれども、独立系書店、もしくはセレクト書店といわれる、オーナーの個性を打ち出した書店は増えていること。独立系ではスター書店主のようなあこがれの存在がいて、またブッキストと呼ばれる、本をセレクトする専門家も活躍しています。また、ブックホテルや読書に特化したカフェなど、本関連の様々な業態も登場しています。書店は消えているけど、本をめぐる業態は、マニエリスムアートのように複雑に多様化していて、一見、栄えているように見えるんです。 今村:今の時代「多様化」と言ったら、いいふうに捉えられるけど、逆に言ったら、出版・書店のビジネス構造の一番まずいところを改革できなかったからこそ、みんながあの手この手でやってきて、その結果、多様化した、とも言えますよね。 なるほど。真ん中がどうにもならないから、外縁に広がっていく。 今村:歴史で言うと、いつまで待っても中央から援軍が来ないから、各武将が各方面でそれぞれの戦い方をしていくうちに、別の勢力圏が築かれるということですよね。自分らの持ち場はこういう地形で、こういう天候だから、こんなふうに戦おう、と。 ただ群雄割拠は、それだけだと1つの大きな力には、なかなかならないですよね。