直木賞作家が仕掛けるシェア型書店、1号店は初月から黒字に
本が売れないのに販売点数が増えている理由
今村:もう1つ、ねじれを言わせてもらうと、この業界では、本の販売数は下がっているのに、出版点数はいまだにかなりあるんですよ。だから、そこもねじれているよね。売れている量は右肩下がりなのに、出版点数はそこまで減らないって、需要と供給の論理に合ってへん。 この点に関しては、前回のインタビューでも大いに言わせてもらいましたが、出版・書店業界の構造が、今の時代に合わなくなっていることと、あと、出版というものが文化を楯に、過剰に保護されてきてしまった弊害があると考えています。 本が貴重な物で、店に置いておけばとにかく売れた前世紀に、それを回す本の取次システムが出来上がり、再販制度と委託制度という保護制度もがっちり付いた。売れても、売れなくても、本を次から次へと世に出していけば、作家、出版社、取次、書店は、業界内でなあなあと回っていく。その中にいる人にとっては、ある意味、夢のようなシステムです。 今村:昔はドリームだったかもしれへんけど、作家の立場で言えば、健全な競争がそこに起きていないから、全体が沈んでいくんです。 常々語っているように、作家はアスリートを見本にしなければならない、というのが、僕の持論です。基本は実力勝負だけど、運の要素も大きくて、実力と売れる状況が必ずしもイコールじゃない。それでも生き残っていける人が作家になる。そこには力量とともに、運や覚悟がいる。 例えば野球のスター選手が、学校時代のチームメイトのことを「あいつは僕より才能があった」と評していたりするのを、よく聞きますよね。でも、その友達は何かが足りずに世に出られなかった。アスリートの世界では、それが当たり前なのに、作家は既存のシステムというぬるま湯の中で、だらだらと生かしてもらっている気がしてなりません。 その既存システムが古びて、制度疲労を起こして、使い物にならなくなっている。政治と同じですね。 今村:多様性はあってもいいと思いますが、その点もまた考えていかないといけないな、と思います。既存システムの限界に目を向けないでいると、いずれ大きな崩壊が起きる。僕は、守るべきことと、つぶすべきことは相反するとは思っていなくて、守るために、つぶれるべきは、つぶれるべき。この業界に構造改革は絶対に必要です。 出版・書店業界を救うためには、大きく2つの流れがあると思っていて、1つは今、話題になった書店業態の多様性の中から、それぞれの答えを見つけて、各人が各持ち場で力を尽くしてビジネスを広げていく戦法。 もう1つは、出版社、取次、書店と、業界全員が知恵を出し合って、構造改革に取り組むこと。これは2つを同時に進めていかないとダメで、そのために「ほんまる」という仕組みを精一杯に使っていこうと思っています。
清野 由美