どうなるエネルギー基本計画 気候政策シンクタンク代表が指摘する「危機感のなさ」
「ゼロエミ火力」と原発では1.5℃目標に間に合わない
──日本では、石炭火力に水素やアンモニアを混焼させたり、二酸化炭素貯留(CCS)技術で地中に温室効果ガスを封じ込めたりすることで、「ゼロエミッション火力」として今後も活用していく方向で議論が進んでいますね。それではいけないんですか? 一番の問題はスピード感です。気候変動対策は、早く取り組まないと手遅れになる。1.5℃目標と整合させるためには、先進国は2030年には石炭火力を廃止しなければならないとされています。 ところが日本の現在の目標は、2030年までに石炭火力の2割をアンモニア混焼にするというもの。これからの技術ですから、この目標が達成できるかどうか不透明ですし、達成できたとしても残りの8割はまだ石炭を燃やし続けることになる。これでは1.5℃目標にまったく間に合いません。 また、水素やアンモニアを海外で製造して日本まで輸送したり、CCSで広大な土地を使ってCO2を地中に長期間貯留したりといった複雑なプロセスには、多大なコストがかかります。世界で再エネのコストが急速に下がっている中、どこまで将来性があるのか疑問です。 火力発電を延命するこうした技術にここまで大規模に投資しようとしているのは、日本が唯一と言っていい動きであり、海外では「日本は未来ではなく、過去への投資をしているんじゃないか」と不思議がられます。 ──では、原子力はどうでしょうか。近くまとめられる経済産業省の案では、現行計画にある「可能な限り原発依存度を低減する」という文言が削除されると報じられています。ここまでの議論でも、原発は脱炭素電源と位置づけられ、国による後押しを求める声があがっており、原発の「新増設」を盛り込むかも注目されています。 私たちの推計では、停止している原発のほとんどが稼働するという楽観的なシナリオでも、電源構成の15%にしかなりません。その後は老朽化して廃炉になる原発が出てくるので、2050年に向かってこの割合はさらに下がっていきます。現行計画の2030年度の電源構成では、原子力で20~22%を賄うとされていますが、現実的とは思えません。 では原発を新増設すればいいかというと、新規の原発の計画から稼働まで20年かかるとも言われますし、立地のことを考えても今後、大量に建てるのはどう考えても不可能です。安全性に加え、新増設のコストが高いことや放射性廃棄物の処分地をどうするのかといった問題もありますが、1.5℃目標の達成という意味でも、原発に大きく頼ることはできないのです。 ──今回の議論では、火力や原子力を重視しなければいけない理由として、AIの普及やDXの進展に伴って国内に多くのデータセンターが建設されるため、今後の電力需要が増える見通しであることが挙げられていますね。 データセンターの電力消費量が多いのは確かですが、同時にデジタル化によって省エネ技術が進むことも考えられます。そのことを度外視して「電気が足りなくなるから火力や原子力を増やさなければ」というストーリーに落とし込まれているように見えます。 経済界では、事業で使用する電力を100%再エネで調達することを目指す国際イニシアチブ「RE100」に多くの企業が参加するなど、再エネへの需要が高まっています。 発電設備だけつくっても火力や原子力への依存度が高いままだと、産業の立地として日本が選ばれなくなる恐れもあります。やはり、再エネの割合を増やしていくことが基本なのではないかと思います。