林士平の考える就活のポイントは「落ちても俺は悪くない」。数々のヒット作を作家と作り上げた編集者が語る、出版社就活の現在【「私の愛読書」特別編】
出版社への就職を志す人の多くは、大手出版社で活躍する編集者が就活生時代、どんな本を読み、どのような影響を受けたか関心があるのではないだろうか? 【連載】「私の愛読書」を読む
そこで「ダ・ヴィンチWeb」では本に携わる仕事を夢見る若者を応援すべく、漫画編集者の林士平(りんしへい)さんにインタビューを実施。 林さんといえば、『青の祓魔師』や『チェンソーマン』『SPY×FAMILY』(いずれも集英社)など、様々なヒット作を世に送り出してきた漫画編集者だ。今年6月28日には担当作家・藤本タツキさんによる『ルックバック』(集英社)が劇場公開された。 数多くの名作を漫画家と共に作り上げてきた、編集者の大先輩・林さんに現在の出版就活を軸にお話を伺った。
学生時代は就活本すら楽しんで読んでいた
――本日はよろしくお願いします。過去のインタビューを拝見すると、Kindleだけで書籍所持数が1万冊を超えているとのことでした。 林士平さん(以下、林):この間数えたら2万冊を超えていました。 ――2万冊! たくさん読んでいらっしゃいますが、林さんが就活生だった頃はどのくらい読まれていたんでしょうか? 林:あの頃は学生でお金がそんなにあるわけでもなかったので、大学図書館のヘビーユーザーでした。「学費分取り返す!」くらいの感覚で、毎回借りられる上限数を借りていましたね。 ――では今はどのような出会い方をされているんでしょうか? 林:とにかくちょっと気になったら買っちゃいます。すぐ「仕事だから」という言い訳で(笑)。漫画でも人から薦められたものをとりあえず最初の3冊だけ買っておいて、気になったら続きを買って読む。薦められたものは忘れる前にその場で買うので、友達とかに言われて見てみたら2年前に買っていた、とかよくあるんですよ。 ――かなり読書家な林さんですが、学生時代に受けた出版社は集英社のみで、出版社就活にはこだわっていませんでした。そんな中でも当時出会っておいてよかったと感じる本はありますか? 林: 『ロジカル・シンキング』(照屋華子/東洋経済新報社)とか。今に生きているかどうかはわかりません、単に面白いなと思っていただけかもしれない。あの頃はディスカッションとかディベートとかの本が好きでしたね。あと一時期、マッキンゼー系は全部読もうとしていた時期がありました。「マッキンゼー」とついている本は全部読むぞ、と。 ――マンガに限らず、本当に何でも読まれていたんですね。 林:本当に雑食で、ビジネス本に限らず色々読んでいました。僕は浪人しているので、就活の時期に同級生が先に就職していて。友人の就活が終わったときに「出版社への道」みたいな本をくれたんです。その友人は医療系の出版社に行ったんですけど、僕は全然出版社を受けるつもりがなかった。でも貰った本をぱらぱら捲ると面白そうで、元々漫画が大好きだったので、1社くらいは受けておくかと、集英社を受けました。 就活本も結構面白いんですよね。書籍のタイトルは忘れてしまったんですけど、その質問が何を問うているのか、何が正答に近づくのか、みたいな企業の試験の分析が載っていて。そういう裏道系の本は大好物でしたね。 ――実際にそういう裏道知識のようなものは真に受けて、素直に読んでいらっしゃったんでしょうか? 林:もちろん全部素直に読んで、志望度が低い企業のときにそれを試したりしていました。就職活動なんて、僕のことを何もわからないけど合否を決めるわけじゃないですか。単なる印象操作のゲームで、落ちても何も辛くない。そう思ってやっていたので、どうせだったら楽しもうと裏技本を試していました。 ――たとえば出版社の就活だと「人生を変えた本とその理由」という質問がよくあるじゃないですか。今の林さんだったら何と書きますか? 林:受かるために書くとしたら、なんて書くかな…その時の自分のペルソナをどう作るか、ですよね。その時の時世に合わせて、心にもないようなことを書くような気がします(笑)。 集英社を受けるのであれば…『巨象も踊る』(ルイス・ガースナー:著、山岡 洋一・高遠 裕子:訳/日経BPマーケティング)とかですかね。改革への意思と興味を示すことになると思うので。若さに期待するのは、変化する力、な気がして。現状に危機感は持ちつつ、良い仕事で変えていくぞ、という意思表示というか。本当に好きな本を選ぶならエンタメの本になる気がする。でも、就活のときに表明することって自分の好きな物事じゃなくて、その企業の今や未来のことを伝える必要があると思うんです。 ――林さんが就活をしていた頃と今では、出版社の状況やエンタメの在り方も変わっていると思います。そんな今の就活生に、林さんがおすすめしたい1冊はなんでしょうか? 林:ディズニー本社CEOの本ですかね。『ディズニーCEOが実践する10の原則』(ロバート・アイガー:著、関美和:訳/早川書房)です。ディズニーが圧倒的な地位に存在し続けられる理由を歴史的な観点で、理解できるので。ただ、現状のディズニーも様々な要因で、苦戦が多く見受けられるので、何が正解なのか…常に変わり続けるからなあ…。 ただ、マルチタスクに適応しないと編集業務はおすすめできないので、GTD(Getting Things Done:仕事を成し遂げる)の本はおすすめしちゃいますけどね。『はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』(デビッド・アレン:著、田口元:訳/二見書房)は電子版がなくてアナログだけですが、すごく基本のことを書いています。基本だからこそ、こういう風に考えて仕事しよう、と考えられると思います。