西アフリカ・ベナンの布“バティック”で、職人も着る人も笑顔にしたい 女性起業家の進む道
沖田さんは入社した生命保険会社でシステム部門でプログラミング担当を4年、IT関連の部署で2年勤め上げた。 生命保険会社に入ったのも「世界のどこに生きても笑っている世界にしたい」というベースから。生命保険は家族の収入源が何らかの理由で失われ、収入源が途絶えて学校に行けなくなることを避けるために備えるものだと思ったからだ。 また会社も、生命保険が一般的ではない東南アジアに進出していた。人生の選択肢が万が一の時に減らなくていいサービスを届けるのは、会社員をしつつも自分の目指す世界に繋がると感じられ、やりがいも大きかった。 「このまま会社員として生きていくのもありかな、と思うほど楽しかったです」 しかし、29歳ごろに退職。そこにはもう一つの夢が大きく関係している。 「母親になりたいという自分の夢があったんです。好きなことを仕事にする背中を見せるオカンになりたいなと。まだ結婚の予定もなかったし、子どもの予定もなかったですけどね。でも子どもが生まれると、働く時間が少なくなるかもしれないので、新規事業をやるなら、子どもが生まれる前に形にしておくほうがいいと思いました。そうでなければ何歳になって始められるかわからないなと。30歳の足音が聞こえてきたときに、そう思い浮かびました」 めでたく、息子さんを出産。1歳の息子さんを抱えながら、AFRICLの社長業に精を出す。沖田さんは自身で事業を行っていて、育休を取ることができない。息子さんは母親と過ごす時間が限られる日があるため、AFRICLとの両立が本当にいいことなのかと迷いはある。ただその一方で、お客さんをはじめ、母親以外の大人たちも息子さんを見守ってくれる環境に温かさを感じているという。 「子育てをする母親の暮らし方として今まで暗黙に日本で期待されてきた生活とは違うと思います。でも自分がそれを出来ていて、息子にそれを見せられている。そういう母親の姿があってもいいんだと知ってもらえることは嬉しいですね」 今年5月にはキッズ製品が登場。長らく、サイズアウトの早い子ども服はブランドコンセプトに合わないと考えていたが、子どものうちからベナンの布に触れて欲しいと考えるようになった。 また今年3月には実店舗がオープン。AFRICLの製品だけでなく、他の国の布で作られた服なども販売されている。実店舗では気軽に立ち寄れるため、これまで普段の生活で出会わなかった国の布に触れる機会をもたらすことが期待されている。 素敵な布で仕立てられた服を纏うことで、国際協力の活動に参加することにもなるAFRICLの洋服。まちでアフリカからの布を纏う人々がもっと行き交えば、伝統が広がりをみせる。日本人も、ベナンやアフリカの人たちの笑顔も増えるのだろう。そんな世界を想像するだけで、笑みが溢れる。
取材・文:星谷なな