【日本の山は常に死と隣合わせ】林業経営の最大リスクは労働災害、安全への知の結集を
朝食では家族と水盃(みずさかずき)を交わすぐらいの覚悟で出勤しないとだめだと、従業員によく言ったものだ。 結局は、自己の危険予知能力を研ぎ澄まして、自然の魔の手から逃れるしかない。 とにかく多くの事例を熟知してどんな場所、どんな気象、どんな森林、どんな時間で危険が待っているのか想像力を働かせる。そして安全対策は創造的でなければいけない。 さらにチームで作業することが多いわけだから、同僚のことも気遣って、声を掛け合い、 注意を喚起する。チームの想像力を結集すれば、より多くの危険を予知することができる。自分が感じた危険を即同僚と共有することや、油断の発生する時間帯に声を掛け合うことなどで、チームの危険回避能力は飛躍的に高まるであろう。 経営者や安全管理者は、業界全体の安全に関する情報のキャッチに努め、それを従業員に 速やかに伝達しなければならない。類似災害の発生防止は労働安全の鉄則である。林業は、昔は作業現場ごとに孤立した職場だったが、今はネット社会である。知りませんでしたでは許されない。 国有林の安全管理の特徴的なものの1つに、毎年度行われる業務研究発表会で、現場の従業員が自分たちが行った安全活動や労働災害の経験、道具の改善などを発表する機会があったことである。こうしたプレゼンテーションは、現場作業と違う緊張感があって、改めて安全作業とは何かを振り返る契機になる。現在では民有林を含めた発表会になっているはずなので、民間事業体の優れた安全への取り組みもどんどん発表してもらいたい。
林業経営を圧迫する労働災害
昭和期の国有林野事業では毎年度、多い年には10人を超す死亡災害を出し続けていた。重大災害は、本人・家族・同僚たちの悲しみはもとより、民間では事業体等の経営を破滅に導く。 警察署、労働基準監督署の捜査が入り、災害補償などにも膨大な事務が必要で、時間と費用のロスである。おまけにその間まったく作業や業務はストップする。 国有林の場合は、全国の現場で作業を一時ストップさせて、営林署の管理職が災害状況と防止対策を説明し、現場職員と話あった。これだけでも膨大なロスである。 労働災害の事後処理ほど非生産的な仕事はない。結局、労働安全・労働災害の予防が林業経営の利益を確保する上でも、最重要課題である。経営者は、目先の利益に囚われることなく、最大の利益をもたらすものが安全作業であることをしっかり認識しなければならない。 とにかく林業の事業実行は危険なことだらけである。最近の心配はクマの出没である。昔は危険な時期が限られていたが、今は年中襲われる。やはりある程度の駆除は必要と思われるが、猟銃による誤射で命を失った事例もある。 以前はマムシも怖かったが死に至ることは少なかった。ところがスズメバチやダニなど昆虫による死亡事故もある。本当に山に行くのが命がけになってきた。
中岡 茂