時事問題の「定番」が崩れてしまった――激痩せしたクイズ王、コロナ禍を語る
世界の様相を一変させた新型コロナウイルス。それはクイズの世界においても例外ではない。「コロナ禍で狂わされた時計の針によって、クイズ界の共通言語が揺らいでいる」――そう語るのは『パネルクイズ アタック25』『タイムショック』の両高校生大会、学生クイズ日本一を決める『abc』を制覇した古川洋平だ。「クイズ王」の称号でメディア出演をするかたわら、クイズ作家として問題制作にも携わる古川が、コロナ禍がクイズ界にもたらした爪痕を語る。(取材・文:てれびのスキマ/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
決まり文句が言えない出し手、意欲が“濁る”答え手
「今まで覚えてきたものとか、出題できていたものとかが覆されて、不確かな情報が溢れ出した1年だったと思います」 こう話すのは、クイズ作家の古川洋平。クイズ番組のほか『水曜日のダウンタウン』等バラエティー番組への出演も精力的にこなし、テレビクイズ界を支えてきた男だ。 昨今は、いわゆる「東大生ブーム」をきっかけにクイズ番組が人気を集めている。リアル脱出ゲームなどの謎解きイベントも盛り上がりを見せていた。それを支える古川たちを新型コロナウイルスが直撃する。 これまでも地震や災害などで世の中が大きく変わることはあった。だが、「こんなに先が見えないことは初めて」だと古川も言う。何しろ、五輪延期という、それまで想像だにしていなかったことが起きたのだ。
「五輪などは時事問題の定番ですが、『来年、東京五輪が開催されますが……』といった言葉を使えなくなってしまった。今までは予定されていれば開催されるものだったから『されますが』って言えたけど、今、『されますが』と言うと、『いや、ちょっとそれ違わない?』ってなっちゃう。そういう当たり前の言い回しができないくらい、過敏になった問題づくりをしなくてはならなくなったんです」 「答える側としても『覚えたところで、これは果たして出題してもらえるのだろうか』っていう、いらない疑問が挟まるようになっちゃったところはあります。以前は、将来これが起きるから、未来のことも押さえておこうという気持ちが働いたんですが、『ないかもしれない』と思うと、覚える気持ちが少し“濁って”しまう部分はあります」 コロナ禍の余波は、こんなところにも及んでいた。クイズ界の根底を揺るがす事態。さまざまな「前提」が変わってしまった。 「夏の高校野球が開催されない年が発生してしまったので、『連続』とか『何回中』などをどう扱うか、人によって変わってしまう。今まで“共通言語”だったものを使っていいのか精査しないといけない。コロナが収束して、『普通にクイズができます』ってなったときに、その荒れたクイズの知識の土地を整地するのが、めちゃくちゃ大変そうです。これはクイズ愛好家たちが一丸となって取り組まなければいけない課題だと思います」