佑ちゃん”涙の7球”がSNSでの公式戦の引退試合賛否を封印!
マウンドでナインに囲まれた斎藤はニコニコしていた。1万3618人のファンからの惜別の拍手に右手を上げてマウンドを降りたが、ベンチで栗山監督に声をかけられた途端に涙腺が崩壊した。タオルで目をおさえて号泣。ベンチに座り、後を託した左腕、堀のピッチングを見守りながら涙が滝のように頬を伝った。 公式戦での引退試合の定番は、先発、打者一人、三振が、暗黙の了解のようになってはいるが、栗山監督が「投手・斎藤」を審判に告げたのは4-3で1点をリードして迎えた7回表。先発上沢からバトンを受けた2番手である。 首位のオリックスは2位のロッテにマジックを点灯され熾烈なV争いの最中。報道によると栗山監督は、「普通にやってください」と、””三振セレモニー”の辞退をオリックスサイドに告げていたという。不可解な起用法だが、これも栗山流。だが、みすみす無死一塁の状況をプレゼントしたこととなり、ソフトバンク戦が、雨天中止で、この試合の行方を見守っていたロッテの首脳陣や選手、そしてロッテファンの心境はおだやかではなかっただろう。 結果次第では、ネットが炎上してもおかしくなかったが、ロッテファンの声を静め、斎藤の引退試合の花道を感動に変えたのが、斎藤の最後の力を振り絞った真剣勝負の7球であり、後を任された堀の力投だった。宗、紅林、杉本と続く好打順を三者凡退に抑え無失点で切り抜けた。ベンチで号泣していた斎藤も、ほっとした笑顔で堀を出迎えた。 斎藤は引退セレモニーで「僕が持っているのは最高の仲間です」と名言を残した。それは斎藤が早大時代の2010年に「何を持っているのかを確信しました。それは仲間です」と語り、新語・流行語大賞の特別賞を受賞した言葉と同じだったが、最高の仲間が、佑ちゃんの引退試合に批判が出ないようにバックアップしたのである。 球団サイドは配慮に欠けていた。 自ら引退試合を経験したことがある某評論家は、こんな正論を話していた。 「なぜ26日の西武とのホーム最終戦で行わなかったのか。オリックスと優勝争いをしているロッテやロッテファンに失礼。公式戦であっても、それが消化試合であれば、先発、打者一人は、まだ許容してもらえるだろうが、せっかくの引退試合が、ひとつ間違えば、大問題につながる懸念もあった。暗黙の了解の範疇を逸脱した引退試合にならないように日程も含めて球団は細心の配慮をすべきだったと思う」 日ハムが26日の西武との最終戦ではなく、オリックス戦に持ってきた理由は明らかにされていないが、日曜のデーゲームで集客とグッズ売り上げなどを意図したものだと考えられている。実際、チケットは完売していた。26日は平日のナイターになるが、新型コロナ禍で入場制限されている状況では、集客に、そう大差はなかったのではないか。 中田翔の暴行事件について詳しい説明もないまま巨人へのトレードを敢行した際にも、球団は、その説明責任と姿勢について批判を浴びていたが、マーケティングに長けて、メジャー方式の球団経営を行っているチームにしては、あまりに野球に関するガバナンスが機能していない。 だが、それらのすべてのマイナス要素を封印するほどの感動を斎藤は、真剣勝負の7球で日ハムのファンだけではなく、プロ野球ファンに届けた。