多摩地区住民約790人から「発がん性物質」が検出された衝撃…「家の水道水が危ない」京大准教授が警告する理由
■原因物質が広範囲すぎる しかし、メチル水銀の摂取量が比較的少ない場合に見られる感覚障害や子どもの神経発達への影響は、症状が捉えにくいため、その影響が理解されるまでに長い時間がかかりました。 PFASについても現在、私たちが摂取している量では急性の影響は出ませんが、摂取量が高いか低いかで比較して、様々な病気のリスクが研究されてきました。 PFASの摂取量は原因となる物質、製品があまりにも広範囲にわたるので、なかなか特定できません。個人ごとの生活習慣や活動範囲によっても摂取量はまちまちです。 そこで摂取量を個人ごとに把握するために血液中のPFAS濃度が利用されてきました。 ■米国、ドイツでは「望ましい血中濃度」が示されている 米国やドイツでは、健康への影響が少ないと考えられる、望ましい血中濃度の数値を具体的に示しています。 米国科学・工学・医学アカデミーでは、PFOSとPFOAなど7種のPFASを合計する血中濃度を20ng/mlと定め、これを超えると、脂質異常症や甲状腺疾患といったリスクが徐々に上がるとしています。 そして、濃度の高い人は摂取量を減らすための対策を行ったり、影響の早期発見のために血液中のコレステロール値の検査を受けたりすることをすすめています。 また、ドイツ環境庁の専門委員会はPFOSの血中濃度が20ng/ml、PFOAは10ng/mlと設定し、妊娠可能年齢の女性はそれぞれ半分の濃度としています。
■日本にはまだ基準がない 私たちが血液調査をする際もこの「20ng/ml」を一つのラインに設定することが多く、それを超すと注意が必要と判断します。 ちなみに、私が協力した多摩地区の住民が行った血液検査では、この濃度を超す住民が多くいました。 日本ではいまだ、こうした指針値は示されていません。日本においても疫学調査に基づいたリスクの評価を行い、望ましい血中濃度の上限を示すべきだと、私は考えます。 ■血中濃度が高い性別と年齢がある PFASの血中濃度を20歳から50歳くらいの男女で比較してみると、男性のほうが高い傾向があります。 女性の場合、月経で血液が体内から排出されることで定期的にPFASが減っているのではないかと思われます。高齢者では男女差があまりないので、閉経後は同じ状況になるのでしょう。 05年に、京都市に10年以上住んでいる人たちを対象にした調査を行いました。それによると、PFOAとPFOSの血中濃度は月経のある女性よりも閉経した女性のほうが高くなりました。 男性ではこうした年齢での変化はなく、女性は60歳くらいになると男性と同じ濃度となっていました。 実は男女別でPFASの健康影響の現れ方に違いがあるのかという視点の研究はあまりされていません。ただ、女性の月経がある期間は長いので、研究が進めば病気へのリスクに男女の差があることがわかるかもしれません。