バレーボール最速昇格成し遂げた“SVリーグの異端児”。旭川初のプロスポーツチーム・ヴォレアス北海道の挑戦
新たな発想を柔軟に受け入れる組織のあり方
――現状、SVリーグは企業チームとクラブチームが共存していますが、将来的には足並みをそろえて完全なプロ化を目指すのでしょうか。 池田:プロ化の正確な定義はなく、チェアマンの大河さんは「お客さんから対価をもらっている以上、プロと遜色ない」とおっしゃっていて、私もそう思います。現状、選手がチームと個別契約することと、各クラブがちゃんと収支を明確にすることは求められています。ですから、実質プロリーグという認識でいいと私は考えています。 ――その点はヴォレアスがプロチームの前例を作ってきたことも大きいのですね。他クラブと異なるカラーや発信を、リーグ側も柔軟に受け入れてきたのでしょうか。 池田:ありがたいことに、その空気感は以前からありました。先日、東京でSVリーグの会議があったのですが、その日はたまたま私が小学4年生の息子と居なければなかったので、「難しいよな」と思いつつ、リーグの方に「息子を連れて行ってもいいですか?」と聞いたら、快諾してくれて。連れて行ったら他のチームの皆さんも歓迎して受け入れてくれてありがたかったです。 ――風通しのいい雰囲気がイメージできます。池田社長はトップリーグの代表で最年少(38歳)ですが、企業のチームが多い中で、そうした面での重圧などはなかったですか? 池田:創設当時は30歳だったので、確かに若いなと思いました。そもそも他のチームは母体企業の総務や人事の部長の方がチームの責任者をやっていたりして、大企業の部長クラスは50代~60代の方が多いですから。ただ、今は8年やっているので、もう慣れましたね(笑)。
ヴォレアスの収益構造とは?「トップとは5倍の差」
――同じトップリーグのライバルチームとの力の差についてはどのように考えていますか? 池田:ライバルチームは企業の巨大な資本があるチームが多く、ついていくのが大変な面はありますが、長い目で見ると私たちにもチャンスはあると思っています。大企業チームはその企業のサポートがなくなってしまったらピンチですが、私たちは運営の事業比率が高いので、稼げる仕組みがあればチームの収益構造を改善し、成長する分伸びしろがありますから。 ――ヴォレアスの収益構造について、可能な範囲でお聞きしてもいいでしょうか。 池田:基本的にはパートナー契約(スポンサー料)が圧倒的に多く、6割ぐらいを占めていますが、現在は150から200の企業と契約をしています。ですので、仮に1社スポンサーがやめてしまった場合、もちろん大きな痛手ですが、廃部の危機にさらされるほどのリスクにはなりません。 また、チケット収入比率も他の企業チームより高いと思います。というのも、企業チームは元々、社員には無料チケットを配りますが、僕らは当初から有料チケットで、無料チケットはほとんど配っていないからです。無料チケットが増えると、発券数では満席のはずなのにお客さんが入らなくて実際にはガラガラ、ということが起きるので、チケットの価値が下がってしまう。そうならないように、私たちは有料率98%とか、低い時でも90%以上を維持してきました。 ――集客との葛藤もありつつ、興行を成立させていくためには必要なプロセスですね。運営予算は、各チームによってかなり差があるのですか? 池田:現状は差があると思っていて、おそらくSVリーグ10チームの中でうちは9番目か10番目だと思います。一番上のチームとは、5倍くらいの差があるんじゃないでしょうか。 ――SVリーグは西側にチームが多く、北海道からはアウェーの移動や宿泊なども大変そうです。 池田:それはありますが、北海道の宿命だと割り切っています。アウェーの遠征に来てくれるサポーターさんもいますし、各地域で応援してくださる方たちの応援が支えになっています。他のチームとは異なる特殊な存在として「バレーボール界の現状を変える希望の星だ」と言ってくれる方も全国にいらっしゃるので、そういう方の声に応えていきたいと思っています。 <了>
[PROFILE] 池田憲士郎(いけだ・けんしろう) 1986年生まれ、北海道旭川市出身。ヴォレアス北海道代表・株式会社VOREAS代表取締役。地元で中学から社会人までバレーボールを続けた経験を持つ。大学卒業後、東京の建設メーカー、地元の建設会社での勤務を経て、2016年に地域創生を目指してプロバレーボールチーム「ヴォレアス北海道」を設立。翌年、株式会社VOREASを創業し、経営とともに環境事業、食事業など幅広く展開。2023年4月に最速でのトップリーグ昇格を果たし、24年10月に開幕するSVリーグに挑む。
インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]