「しないでおく、こと。― 芸術と生のアナキズム」(豊田市美術館)レポート。芸術家たちの抵抗と創造の実践に触れる
コーポ北加賀屋が展示室内に出現
つづいて展示室の中に入っていくと、中央に木やスチールのラックに囲まれた大きな構造物が待ち構えている。大阪の北加賀屋にある協働スタジオ「コーポ北加賀屋」による作品だ。 コーポ北加賀屋は、建築家集団のdot architects、アーティスト集団contact Gonzo、NPO法人remo、オルタナティヴスペースを運営するadandaといった様々な分野の組織が集まり、水平的な関係の実践の場として共有/分有されている。本展ではコーポ北加賀屋そのものを美術館の展示室内に出現させる試みとして、コーポからそれぞれの事務所に置かれていた様々なものを持ち込んだ。 棚に飾られているのは、古い野球ボールや瓶、建築模型、おもちゃ、オブジェのようなものなど、共通点はなく雑多だが、すべてに番号が振られ、さながら博物館のように並列に陳列されている。マネキンや机に置かれた地球儀、ネオンライト、モニター、椅子などにも番号がついており、会場にあるQRコードを読み込むと表示されるリストには、それぞれの品々の所蔵先と、「法事でもらった壺」「どこかのお店で購入したもの」といったエピソードや制作背景などが一つひとつ記されている。 また美術館の庭園には、コーポ北加賀屋による小屋も出現。来場者はこの小屋に自由に入ることができ、会期中はコーポの入居者らがイベントを実施するなど、「動いていく展示」にすることを目指しているという。
アナキストが集ったスイスの「モンテ・ヴェリタ(真理の山)」
同じ展示室の右側の壁面には、かつてスイスにアナキストたちが集った「モンテ・ヴェリタ(真理の山)」の歴史的展開を紹介する資料展示が展開されている。 19世紀末から20世紀初頭、産業化の進む都市を離れ、スイス南部のアスコナに多くの芸術家や思想家が集まり、コミュニティを形成した。ここでは同地近郊に住んでいた、ロシアのアナキスト、ミハイル・バクーニンに引き寄せられるように人々が集まり始め、展開していたった流れを1869年から時代順に年表で解説。ダダやバウハウス、ノイエ・タンツなどの芸術家たちとの関わりも、資料やラースロー・モホイ=ナジ、ハンス&ゾフィー・トイバー=アルプ夫妻らの写真や作品などを通して知ることができる。