「しないでおく、こと。― 芸術と生のアナキズム」(豊田市美術館)レポート。芸術家たちの抵抗と創造の実践に触れる
美術館内で撮影、オル太が描く「団地」の物語
最後の展示室では、オル太によるインスタレーションと映像作品、昨年に死去したマルガレーテ・ラスペの作品群が並ぶ。 5人組の芸術家集団オル太は、「団地」をテーマにした作品《Living Conditions》を発表。「しないでおく、こと」という展覧会タイトルから「資本や労働からの逃走」をイメージしたという彼らは、豊田市など様々な地域の団地で行ったリサーチをもとに、日常や家庭という視点から現代社会において人々が直面する状況を描いた映像作品を制作した。 会場には配管をイメージした構造物が作られ、パイプに囲まれるようにステンレスの流し台と座卓が置かれている。これは日本で初めてダイニングキッチンが導入された東京の晴海団地をモデルとしており、大量生産が可能なステンレスの流しは、資本主義下の女性の地位向上にも影響したという側面も持つ。映像作品は、すべて展示室をふくむ美術館内で撮影されており、展示室の外にも作中に登場する中華そば屋ののれんやカウンターなどが出現している。 また本展では、オル太が2017年から展開している、都市を観察・調査する「スタンドプレー」の一環として、2019年に多摩のニュータウンで行ったツアーパフォーマンスの記録映像《スタンドプレー vol.4 多摩ニュータウンでのアクティビティ》もあわせて上映されている。
家事労働と創作を行き来したマルガレーテ・ラスペの活動
ベルリンを拠点に活動したマルガレーテ・ラスペの作品にも、日常のなかの労働がモチーフとして取り入れられている。 会場では、離婚を経て子育てをしながら制作を行っていたという彼女が、自身の頭にカメラをつけ、家事を行う手元を撮影した映像作品などを上映。肉を叩きつけたり、クリームを激しく攪拌するなど、料理という行為を通して暴力性と生の力強さがユーモラスかつダイレクトに伝わってくる。 ラスペの自宅には、ウィーン・アクショニスムやベルリンのフルクサスの作家たち、アメリカの作家ジョーン・ジョナスらが集い、彼らと自宅の庭で自主企画展や上映会などを行っていたという。自律的に創作活動を続けながら、作家たちのハブとなり、場を提供するということもした彼女の実践に光を当て、本展は幕を閉じる。 主流や制度に抗い、逃れ、思考や創造を続ける作家たちの多様な実践に触れることのできる本展。展覧会タイトルが問いかける、あえて「しないでおく、こと」の可能性とはどういうことなのか? ぜひ会場で思考を巡らせてみてほしい。
Minami Goto