なぜヤクルトは“史上最高の日本シリーズ”を20年ぶりに制することができたのか…入念な準備とコミュ力高い高津監督“神采配”
山本の投球内容を高代氏は、「中盤から少しボールがシュート回転し始めたが、何がベストのボールなのかを見極め、しっかりと修正した。若月のサインにクビをふるケースが後半増えていたので自分で組み立てたのだろう。序盤はストレートを軸にして、後半はスライダー、カーブに切り替え、ヤクルト打線がついてこられなくなった。象徴は2回と7回の三者三振の中身だろう」と分析した。 2回は村上を内角ストレートで見逃しの三振、サンタナは外のストレートでスイングアウト、中村も150キロの内角ストレートで見逃しの三振に仕留めたが、8回のウイニングショットはスライダー、カーブ、スライダーだった。 シリーズの明暗を分けたものは何だったのか。 高代氏は、「ヤクルトの準備とコミュニケーションの力」と分析した。 「山本は、9回1失点で勝てなかった。オリックス打線が援護できなかったのだが、援護させなかったヤクルトの投手陣、それを引っ張った中村の配球が光った。MVPにふさわしいと思う。その配球の裏にあったのは、データを分析した準備力。野村克也さんがチームに植え付けたID野球の伝統であり、中村の感性だった。また山本から1点を奪いとったヤクルト打線も“低めの変化球に手を出さない”という鉄則を全員が守り、球数を投げさせ、ボール半分浮かせてきたボールを狙っていた。5回の塩見のタイムリーもフォークの狙い打ち。これも全員の下準備だ」 先発の高梨は立ち上がりに一死二塁のピンチを迎えたが、中村は考え尽くしてリードした。 レギュラーシーズンで、17.5回に一度しか三振をしていない吉田正をフォークで三振。続く杉本にはインコースを意識させておき、最後はインハイのストレートでスイングアウト。得点を許さなかった。 5番のTー岡田は、この日、5打数ノーヒット。ストレートか、フォークか、の読みを幻惑させ、いわゆる「配球を追いかける」状態にして手玉に取り、オリックス打線を分断することに成功した。 MVPに選ばれた中村は、「オリックスのバッターは本当に粘り強くて、最後の最後まであきらめず苦しかったんですけど、うちの投手を信用してピッチャーのいいところを引き出そうと。ただそこに重点をおいてリードした結果、最後勝ち切れた。ピッチャー陣にも感謝です」と、お立ち台で語り思い余ってインタビューの最後に涙を流した。 高津監督のシリーズ仕様の継投策も冴えた。 5回に高梨が二死二塁から福田のレフト前タイムリーで同点にされると、すぐさまスアレスに交替。回跨ぎで6回、7回とロングリリーフさせた。清水も8回、9回と2イニング。宗、吉田正と並ぶ左打者が10回には左腕の田口に2人だけ投げさせ杉本のところでマクガフを投入。そのまま12回まで続投させたのである。 一方の中嶋監督は、10回にクローザーの平野、11回は村上に対して42歳の元阪神の大ベテラン能見の経験値にかけてワンポイント起用。能見は137キロしか出ていなかった内角球を巧みに使い、最後はフォークでタイミングを外しレフトフライに打ち取った。続くサンタナのところからは比嘉にスイッチ。高津采配とは対照的な執念の小刻み継投を見せたが、最後の吉田凌が誤算だった。 高代氏は、明暗を分けた継投策をこう分析した。