なぜヤクルトは“史上最高の日本シリーズ”を20年ぶりに制することができたのか…入念な準備とコミュ力高い高津監督“神采配”
その裏、高津監督は、ブルペンで用意させていた6人目の石山ではなく、10回二死の杉本の打席から投入し、3イニング目となるマクガフを続投させた。結果的に小刻み継投に失敗した中嶋采配とは、対照的な異例の継投策である。第1戦にワンアウトも取れずにサヨナラ負け。第5戦にも、また敗戦投手となっていた守護神に最後のマウンドを託した。 マクガフは一死から途中出場の山足に死球を与えたが、福田をセンターフライ、そして、その第1戦で同点タイムリーを打たれていた宗をセカンドゴロに打ち取った。マクガフが吠え、その声を合図にまたたくまにマウンドに輪ができる。39歳のベテラン青木が目を真っ赤にさせ、29歳の山田が号泣、21歳の若き4番、村上も手で顔を覆って泣いた。殊勲の川端も涙し、静かに歩を進めた高津監督とマクガフが抱き合った。 1回、2回…10回目は、高くは上がらなかったが計10度、神戸の寒空に指揮官が舞う。 歓喜の胴上げを「寒かった」と振り返った高津監督は、「でも、みんな熱く燃えてグラウンドに立ってくれた結果が今日のこの結果」と胸を張った。 「本当に苦しいシーズンを過ごしてきた。昨年、一昨年と最下位に沈んで非常に難しいシーズンだったので、喜びも何倍も大きい。凄く嬉しい」 素直にそう心境を明かした高津監督は「感謝、感謝、感謝です」と、3度、その言葉を繰り返した。 6試合中5試合が1点差ゲーム。「凄い」「面白い」とファンを魅了し続けたシリーズの決着も1点差ゲームだった。 「絶対に負けられない」という使命を帯びてマウンドに上がったオリックスの山本は、沢村賞投手にふさわしい力投を見せた。3回から7回まで毎回、先頭打者を出したが、ホームは踏ませない。1-1の同点で迎えた6回には、連続失策で無死一、二塁とされたが、サンタナを詰まらせて併殺打。二死三塁からは中村をカーブでショートゴロに打ち取った。圧巻は8回の山田、村上、サンタナのクリーンナップの三者連続三振。すでに126球を投げていたエースが9回もマウンドに上がり、三者凡退で141球を投げ切って役目を果たすと、オリファンは、目頭を熱くしスタンディングオベーションで彼をベンチに迎えた。