【フェラーリ プロサングエ】試乗ツアーで体感する、伝統と革新の技術が生む究極の走行
後部座席も前列と同じくスポーツカー特有のフルバケットシートで、前後の位置や背もたれの傾斜を(ヒーターの温度も)調節できる。その反面、ふかふかのシートに身を沈めてまったりとくつろげるようには設計されていない。後ろに座っていても車の動きやドライバーの意図がダイナミックに伝わってくる。すなわち、後部座席の乗客にも「コー・パイロット」としてドライビングの歓びを共有することが期待されているのだ。 「フェラーリ交響曲」と称されるエンジン音にずっと耳を傾けているのもよいのだが、プロサングエには21個ものスピーカーが備わっている。低音を厚くしたり高音を際立たせたりなど、音の鳴り方も自分好みに変えられる。ラフマニノフのピアノ協奏曲も、コンテンポラリージャズも、80年代のロックンロールも、テイラー・スウィフトの最新アルバムも、音の粒がきれいに再現され、臨場感に満ちた立体的なサウンドとして車内全体に広がった。レーサーにならなければオペラ歌手を目指したというエンツォ・フェラーリが存命であれば、プッチーニのアリアを大音量にして聴くのかもしれない。
フェラーリが苦境に立たされていた時期をマイケル・マン監督が描いた『フェラーリ』(日本公開は2024年7月)の中盤で、アダム・ドライバーが演じるエンツォが設計中のエンジンの青写真を幼い息子のピエロに見せ、マシンのパワーとスピードが向上する仕組みを説明する場面がある。その言葉が、フェラーリの車づくりの神髄を言い表している。 「より優れた性能を発揮するモノは、より美しい姿をしているものなんだよ」
プロサングエとともに風光明媚な土地を巡る旅が終わりに近づいた頃、信号待ちのあいだにふとサイドミラーに目を向けると、映りこんだボディが筋肉質な馬の後ろ脚の付け根に見えた。 「ちっとも怖くなかったでしょう?」 そんなふうに言われたような気がした。フェラーリの長年にわたる研究の成果と最新テクノロジーが凝縮されたこの跳ね馬は、とても賢い。コアな愛好家を満足させる走りをするのは言うまでもないが、不慣れで自信のないドライバーのことも、その技量に合った走る歓びへと誘ってくれる。フェラーリを交替で運転しながら家族や友人と旅をする――。プロサングエは、そんな夢を叶えてくれる頼もしい名馬なのである。 ●お問合せ先:Ferrari Japan https://www.ferrari.com/ja-JP/auto/ferrari-purosangue BY MAKIKO HARAGA