「この子は死ぬために生まれてくるの?」治療を放棄されるトリソミーの赤ちゃん…医師がみた家族の選択
生まれてからは手術の連続
『ドキュメント 奇跡の子』では、航(わたる)さんと笑(えみ)さんの夫婦が赤ちゃんを授かる場面から話を始めました。超音波検査で複数の病気が分かり、最終的に18トリソミーであることも判明します。でも、夫婦に赤ちゃんの命を中絶する選択はありませんでした。 そして生まれたのが、娘の希(まれ)ちゃんです。 トリソミーは予後が悪い(良くなる見込みが低い)から最初から治療はしない……そういった従来の医療の考え方に夫婦はとうてい納得がいきませんでした。夫婦は希ちゃんが最善の治療を受けることを決断します。二人は医師団にできる限りの治療を望み、医師団も最高レベルの技術を駆使して希ちゃんの手術に挑みました。 その後の経過をまとめると―― 生後8時間、先天性食道閉鎖症と腸穿孔に対して、胃瘻と人工肛門を造る手術。 生後2週、心奇形による肺高血圧に対して肺動脈バンディングという一時的な手術。 生後40日で人工呼吸器が外され、希ちゃんは自分の力で呼吸をします。 生後3か月、肺嚢胞に対して肺の部分切除術。 生後9か月で初めての退院。在宅での医療的ケアはありますが、夫婦にとって夢にまで見た家族全員が揃った自宅での生活でした。 生後10か月、気管軟化症に対して気管切開術。 1歳11か月、肝臓にがんが見つかり、腫瘍摘出術。 2歳0か月、気管からの出血に対して、胸を開く止血術。 これだけたくさんの手術を受けますが、夫婦は決して楽天的に決めたわけではありません。トリソミーの子が、親より長く生きることはないと分かっています。笑さんは妊娠中から、いつ自分の子が亡くなるんだろうかと恐怖に怯えながら日々を過ごしていました。 そして生と死の紙一重のところで希ちゃんの命を支え続け、今、この時間を大切にしようという思いを強く持っていました。 幸い、長い闘病の中で、夫婦の間で考え方がずれることは一度もありませんでした。二人は心を合わせて、希ちゃんにとって最善の選択をしてきました。1歳にもならない子どもが、自分の病気に関して手術を受けたいとか、受けたくないとか考えることはあり得ません。決めるのは親だという思いがありました。 0歳の子どもはある意味で本能だけで生きています。人間というよりも、生き物と言ってもいいかもしれません。では、本能で生きている生き物である希ちゃんが、「生きたくない」と思うでしょうか。 そんなことはないはずです。子どもは本能で「生きたい」と思うでしょう。だったら親はできる限りのサポートをすべきで、それが親の務めと二人は考えました。航さんと笑さんは、希ちゃんの治療に関して一歩も引きませんでした。