「この子は死ぬために生まれてくるの?」治療を放棄されるトリソミーの赤ちゃん…医師がみた家族の選択
この世に生まれてすぐに命を失うかもしれない――そんな運命を負わされて誕生する子供がいる。18トリソミーという染色体異常を持つ子供だ。 「18トリソミーの子は、体が弱いので手術に耐えられません。それどころか、生まれてすぐに呼吸できなくて命が果てるかもしれません。よってうちの病院では手術しません」 そう医師に告げられたのは、法律関係の仕事に就く笑(えみ)さんと、航(わたる)さん夫婦だ。 「では……では、死ぬために生まれてくるようなものですね?」 絶望的な気持ちになると同時に反発を覚えた笑さんの問いかけに、医師は答えなかった。 この衝撃的な出来事のほか、出産から旅立ちまでの日々を『ドキュメント 奇跡の子 トリソミーの子を授かった夫婦の決断』(新潮社)としてまとめたのが小児科医の松永正訓さんだ。 2歳10カ月で短い人生を終えた赤ちゃんと過ごした家族を取材した松永さんはどんな想いで作品を発表したのか? 松永さんに話を聞いた。
染色体異常(トリソミー)とは
細胞の核の中にある染色体は2組46本です。両親から1本ずつもらうからです。染色体が3本になっている状態をトリソミーといいます。18トリソミーとは第18番染色体が3本、13トリソミーとは第13番染色体が3本になっていることを指します(以下、トリソミーと表現するのは13トリソミーと18トリソミーのことです。21トリソミーはダウン症のことです)。 トリソミーはいわば生命の設計図に異常があるため、脳や心臓、肺、消化器などに多発奇形を伴います。生命予後は極めて不良で、昔の医学書には、1年生きられる子は10%と書かれていました。また、医療の対象にはならないとも書かれていました。 30年くらい前、私が大学病院に勤務していたとき、奇形を持って生まれてきた赤ちゃんに手術をし、術後にトリソミーと判明すると、その後の治療を一切打ち切っていました。つまり治療を放棄していたのです。 みなさんは、お腹の中にいる赤ちゃんにトリソミーがあると分かったら、どういう選択をするでしょうか。妊娠継続を諦めるでしょうか。赤ちゃんに会いたいと思い、赤ちゃんの誕生を待つでしょうか。そして生まれた後に、あらゆる治療を受けたいと医療スタッフに申し出るでしょうか。 医師の私の目から見ますと、時代と共に「諦めない」家族が増えてきています。日本全国の統計はありませんが、私の母校である千葉大学医学部附属病院の新生児科の教授に話を聞きますと、すべての治療を希望する夫婦が増えているそうです。 私自身もセカンオピニオンという形で、トリソミーの赤ちゃんが生まれた後で、どういう治療を受けるべきかの相談を受けることがあります。昔は考えられませんでした。 いずれにしても先天性の重い難病の子を授かると、家族は選択を迫られます。どういう選択をするかは、基本的には家族の自由でしょう。医師がむりやり家族の決断を変えさせることはできませんし、また、すべきではありません。ただ、トリソミーの子がどう生きていくのかは伝える義務があるでしょう。