【斎藤氏と石丸氏】二人が歩んできた「キャリアの違い」から見える、政治家としての“強み”と“課題”
◆トップエリートがゆえの、周囲への調和と共感の難しさ
そんな優秀でかつ実績も出している二人には共通の課題もあった。それは「県議や市議との対立」である。 斎藤氏は今回の選挙によって民意を得て、選挙中もさまざまなメディアによって誤解は解かれていったものの、県議会による不信任決議を受け失職となってしまった事実はある。 石丸氏も市議会で市議と真正面からぶつかっていた様子はよくSNSでも話題になっていた。ただ、結果的に市議の賛同が得られずに実現できなかった政策もあることを考えると、ベテラン市議たちとあそこまでぶつかりまくったのは、市政にプラスになっていたのかは分からない。 あえて言うならば、二人とも優秀で仕事ができ過ぎるのだろう。そしてだいたいの意見は正論で、反対する側は反対すればするほどしんどくなっていったに違いない。結果的に「あいつの言うことは正論だが、応援したくない」という状況を招いていたことは少なからずあるだろう。 どの業界でもエリート人材に欠けやすい力の一つに「共感性」がある。かなりの高確率で自身が正解を導き出せてしまうがために、他者の意見や不完全な解に対して歩み寄ることが難しいのだ。 ちなみに社会(特に地方)では、正解だけで物事は進んでいかない。特に不正解のものでもその場の空気や人間関係を重視され、採用されてしまうことがある。これは決して正しいことではない。しかしそれを否定してばかりいては、リーダーは孤立してしまう。 斎藤氏も1期目には、あまり他の県議との交流や会食をしなかったことは反省していた。適度な距離感は大切ではあるが、歩み寄ることによって信頼関係を築く力もリーダーには必要だ。 斎藤氏も石丸氏も、自身の優秀さと強い改革意識がゆえに、周囲との調和がうまく取れていなかったとしたら、進むべきものもうまく進まないことが出てくるのも当然であろう。
◆政治家になるために必要なキャリア、能力とは何なのか
それでも斎藤氏と石丸氏の持っている高い実務能力と、地方自治を改革してきた実績は評価したい。それはやはり官民それぞれのトップで実務経験を積んできたからこそなせる業であると思う。 よく政治家はさまざまな分野で活躍した人材の「セカンドキャリア」となることが多い。特に五輪で活躍した元スポーツ選手や元人気タレントなどは、その知名度を評価されより多くの議席を確保したい党から推薦を受けて立候補するケースも多い。 しかしそれは政治家にとって「選挙で勝つ力(=票を取る力)」が過大評価されているのではないかと思う。 斎藤氏も石丸氏も就任当初は全く無名の政治家であった。しかし二人とも地道な政務活動で実績を積み上げ、再度選挙に出た際にはその実績や活動がSNSで取り上げられ、知名度アップにつながった。 もともと知名度や地盤がある人だけが政治家になるのでなく、最初それらはなくとも、本当に政治家に必要な能力や経験を身に付けてきた人材がSNSで民衆の注目を集め、支援につながり、活躍する機会を持てる世の中になってきているのだと、今回の選挙を見て少なからず実感することができた。
小寺 良二(ライフキャリアガイド)