【ABC特集】“余命3ヵ月”宣告された男性と家族が望んだ形 我が家で過ごした390日 患者の思い支える訪問診療
「自宅で最期を迎えるのが望ましい」と日本人の約6割が考えているといいます。住み慣れた自宅で、家族と大切な時間を静かに過ごしたい。そんな思いに応えるのは、医師が定期的に患者の自宅を訪問する「訪問診療」です。 兵庫県尼崎市で訪問診療に力を注ぐ、35歳の医師に密着しました。
医師の寺嶋慎也(てらしま・しんや)さん、35歳。看護士とともに、通院が困難な患者の元に診療に向かいます。
「こんにちは、お邪魔します」 兵庫県尼崎市で、一人で暮らす田代ヨネコさん、90歳。心不全を患っていてこの日は、エコー検査で心臓の動きを確認しました。 (寺嶋医師)「ドクドク動いているでしょ、ここね。ここが一番大事な心臓の左側の下の部屋なんです。この壁がものすごく分厚くなっているんですよ」「慢性的にちょっと心不全の兆候があります」 田代さんは、肺の機能も落ちているため、酸素呼吸器が手放せません。週に1度、血圧を計ったり、膝や腰に痛み止めの注射をしたりする診療を受けています。
診察を受けるのは、15年前に亡くなった夫・太さんと暮らした自宅です。入退院を繰り返していた田代さんですが7年前、『思い出がつまった自宅で余生を過ごしたい』と訪問診療に切り替えました。 「こんな家やけど、ここで終いたい。それが夢や」 本人が望む生活環境を整えたことで、病と闘う気力も湧いてきました。
兵庫県尼崎市の「ゆたかクリニック」。寺嶋医師は、訪問診療の時間以外、ここで患者を診察しています。関西医科大学を卒業後、大学病院の救命救急センターで、約10年間、勤務したあと、2年前にゆたかクリニックに入りこの春、院長に就任しました。
救命救急の現場では、本人が望まない搬送を何度も目の当たりにしました。 (寺嶋医師)「本来、家で最期を過ごしたいと思っていても、救急で運ばれて延命処置を受けると、本人が望んでいない形になることがある」 “自宅で穏やかに最期を迎えたい”という患者の思いに寄り添いたい、と寺嶋医師は、2年前から訪問診療を始めました。医師2人体制で、約180人の患者を受け持っています。 「最期の時をどういう形で過ごしたいか。希望に添った治療や看護、介護の方針を組み立てます」