人生最終章の風景【介護の「今」】
「胃から出血が止まらない。おそらく数日以内には…」 東京に住む山口友昭さん(64歳・仮名)に電話があった。電話は関西の中核都市にある病院の医師からだった。
◇伯母
病院のベッドで、長い人生の幕を下ろそうとしているのは、山口さんの伯母である。 昭和一桁生まれの伯母に子どもはない。夫とは10年ほど前に死別し、一人暮らしを続けていた。山口さんは仕事の多忙さもあり、音信は途絶えがちになっていた。今や一番近い親戚でありながらも、「便りがないのはよい便り」と、ここ数年、伯母の安否を気に掛けていなかった。
◇1年前の電話
病院の医師から最初に電話があったのは、1年ほど前だった。胃がんが見つかり入院したというのだ。山口さんは、連絡を怠っていたことを申し訳ないと思いながら、すぐに伯母の見舞いに行った。 病院のベッドの上にちょこんと座り、一回りも二回りも体が小さくなった伯母が山口さんを出迎えた。認知症があるのだろうか、最初は山口さんが誰だか分からなかったようである。でも、話すうちに何とか思い出したようだった。 土産の肩掛けを渡すと、伯母はうれしそうに羽織ってみせた。
◇生活保護
伯母はいつの間にか生活保護の受給者となっていた。生活保護の申請に際しては、「扶養照会」が行われるのが一般的だ。 扶養照会とは、3親等までの親族に、申請者の扶養ができるかどうかを自治体が尋ねる手続きであり、「扶養は保護に優先する」という生活保護の原則が適用されるのだ。 しかし、山口さんは扶養照会を受けなかった。その理由は分からない。准看護婦として一生懸命に生きて来た伯母は、知らない間に生活保護の受給者となっていた。
◇余命
1年前の入院の時、山口さんは、余命は半年から1年程度と知らされていた。「死に目には会いたい」と山口さんは思っていた。そして、1年が過ぎた頃、医師から緊急の電話があったのだ。 その時、山口さんは、どうしても外せない仕事を抱えていた。翌日、その仕事に何とか区切りを付け、伯母のもとに駆け付けようとしていた矢先に、医師から再び電話があった。