「おカタいイメージ」だったJR西日本が、コロナ禍以降に「おおきく変化したこと」
今年12月、大阪で鉄道の将来を考えるイベントが行われた。それが5日と6日に開催された総合展示会「JR西日本グループ イノベーション&チャレンジ デイ2024」(主催・JR西日本)だ。 【マンガ】外国人ドライバーが岡山県の道路で「日本やばい」と驚愕したワケ 2日間取材し、2つのことが印象に残った。1つ目は「鉄道会社らしくない試み」、もう1つは「数字では表現できない価値を創出」である。今回は前編に続く後編として、「数字では表現できない価値を創出」をクローズアップして紹介する 前編記事『スマホゲームにメタバース…「鉄道会社らしくない試み」が印象に残るJR西日本グループの総合展示会』より続く。
社長も着ていたシャツ
会期初日の13時。JR西日本代表取締役社長の長谷川一明氏が登壇し、開会挨拶をした。講演会場(最大600名)はほぼ満席になった。 まず、長谷川氏の服装を見て驚いた。黒っぽいジャケットの内側に、会場のスタッフ(JR西日本グループ社員)と同じシャツを着ていたのだ。その姿からは、鉄道業界ならではの「おカタいイメージ」を感じなかった。 JR西日本によると、社長の服装に特別な意図はないそうだ。スタッフがシャツを着たのは、前編で紹介したように、グループの一体感を表現するだけでなく、来場者がスタッフを識別しやすくするため。だから社長も同じシャツを着て登壇した。それだけのことだという。 長谷川氏が伝えたメッセージは、ポジティブだった。JR西日本が2023年4月28日に発表した「JR西日本グループ長期ビジョン2032」や「中期経営計画2025-ポストコロナへの挑戦-」に基づき、鉄道事業の基本である安全を保ちつつも、「新たな価値の創造する」「チャレンジでイノベーションを起こす」といった意欲的な言葉が聞かれた。
鉄道に「デザイン思考」をとり入れる
開会挨拶の後には、基調講演が行われた。 タイトルは「イノベーションを生み出すための、デザイン思考の本質」。文字だけ見ると、前編で紹介した「鉄道会社らしくない試み」と共通するものを感じるが、内容はビジネスの本質を突くものだった。 この基調講演では、まずクリエイティブディレクターの山崎晴太郎氏が、デザイン思考について講演した。山崎(「崎」は本来はたつさき)氏は、JR西日本のプロジェクトに関わっている。筆者はデザインの専門家ではないが、その講演の内容をあえて素人なりに要約すると、次のようになる。 一般人にとっては、デザインは非言語的で、数値化しにくい曖昧な部分があるゆえに、その本質をとらえにくい。ただし、既存の概念にとらわれずにイノベーションを起こすには、デザインの考え方(思考)が必要だ。だから、JR西日本グループのブランディングのために、デザイン思考を導入する意味がある。 この解釈は不正確かもしれないので、参考資料を明記しておく。山崎氏の著書『余白思考-アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術-』には、タイトルにある「余白」の重要性を述べるだけでなく、昨今ビジネスで重要とされている論理的思考(ロジカル・シンキング)の限界が見事に言語化されている。筆者は後日それを読み、山崎氏の講演の内容が腑に落ちた。 その後は、JR西日本にデザイン思考を導入した実例として、「Wesmo!(ウェスモ)」の開発秘話が公開された。「Wesmo!」は、ICカード式乗車券「ICOCA」やクレジットカード「J-WESTカード」に次ぐJR西日本の新しい決済サービスで、2025年春に導入される予定である。そのコンセプトは、移動を価値にすることを意味する「Moving is Value.」で、山崎氏がその開発に携わっている。