変形の敷地を建築家はどう生かす?プロのアイデアが光る、コンクリートの箱型の建物を組み合わせた川辺直哉さんの自邸
「子供たちの実家をつくってあげたい」と5年前に自邸を建てた建築家の川辺直哉さん。 五角形の変形地から複雑な形態を導き出すのではなく、シンプルな形状の組み合わせによって街にも暮らしにも寄り添った、表情豊かな住まいをつくり出しました。 【写真集】RCの空間に吹き抜けがスタイリッシュ!五角形の土地に3つの箱を配置した建築家の住まい
角度をずらしたコンクリートの箱が空間に変化と秩序をもたらす
神奈川県横浜市の住宅街に、四角い箱が角度を変えて連結された建物が立っています。ここは建築家の川辺直哉さんが将来子供たちが帰ってこれる家をつくるために建てた自邸。 夫妻の実家から近く、生活環境が変わらない場所で敷地を探していたところ、角地で日当たりがよく、三面接道というこの敷地に出合いました。 敷地は五角形の変形地。それに対し川辺さんはさまざまなプランを検討。 「多角形なども試しましたが、複雑な敷地に複雑な形状を置くと互いが生きてこない。そこで建物は単純化しようと考えました」 そうして導き出されたのは、3つの長方形を組み合わせたプラン。 コンクリートの箱を異なる角度で配置することで、周囲の住宅と開口が向き合うことを防ぐと同時に、建物の周りに複数の小さな隙間を生み出しました。 そこに植物を植え、街と住まいをつなぐ緩衝帯としています。
約6mの大胆なコンクリートの吹き抜け
玄関を入ると、吹き抜けのホールが。ここはちょうど長方形の組み合わせによって生まれた三角形の部分。 約6mのコンクリートの壁が立ち上がり、鉄の階段が曲線を描きながら各階をつないでいます。 踊り場、2階のダイニング、半階上にリビングと吹き抜けを中心に居場所が多方向に展開。 階段を上るたびに風景がくるくると変化。個室と浴室以外は間仕切りがなく、折れ曲がるコンクリートの壁が緩やかに空間を分節しています。 見え隠れが生まれ、プランからは想像できないほど複雑で、広がりのある空間。延床面積が約100㎡とは思えません。 「暮らしのなかで物は増えていきますが、それを許容するために必要なのは収納する場所だけでなく力強い素材感」と川辺さん。 選んだ主な素材はコンクリートと木、鉄、珪藻土。ただし、素のまま使うのではなく、ひと手間を加えています。 コンクリートは表面にヤスリをかけ、小口や開口周りはモルタル仕上げに。鉄はわざとサビを出してからウレタン塗装を施しています。 ラワン合板にはホワイトオイルを塗るなど色や質感の差異を整えることで、主張が強い素材たちを互いになじませています。