「飯田商店」は、こうして私の生涯かけがえのない「愛しい」ラーメンとなった
日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。 山本益博のラーメン革命!
4年ほど前、ほぼ20年ぶりに再びラーメンを集中して食べ始めた時、湯河原の「らぁ麺 飯田商店」の存在を知った。いつか絶対に食べに行くと思いながら、ようやくその願いが叶ったのが、2021年5月のことだった。 店構えは暖簾がなければどこにでもあるような一軒家だが、店内に招き入れられると、打って変わって清潔感に溢れていて、磨きこまれたステンレスのフードなどは、東京の最高峰のフランス料理店の厨房と全く変わらなかった。さらに、案内されたテーブル席に着くと、テーブル上には、箸立てから胡椒に至るまで、何もない。「飯田商店」の「らぁ麺」は、もうこれだけですでに始まっている感じだった。 ご主人の飯田将太さんの動きに合わせて、他の店のメンバーが動いている感じで、リズミカルにしてスピーディな仕事ぶりから、簡潔な一杯が想像できた。
注文したのは「醤油らぁ麺」。目の前に運ばれてきたどんぶりを見ると、スープと麺と具が見事にデザインされていて、どんぶりをもってスープをひと口含むと、「醤油」のかぐわしい香りが凛と立ち上がって鼻をくすぐり、ストレート麺の柔らかな味にスープが優しく寄り添い、チャーシューの脂身がことのほか甘く、それはそれは「優美」な一杯だった。 ただし、海苔だけが気になった、と言うより、気に入らなかった。上質の海苔の端がスープに浸され、香りも味も台無しだったからである。 海苔の決め手は「色、艶、香り、薄さ、口溶け、味わい」と六つある。これが楽しめなかった。 素晴らしく美味しかったのだが、大満足とはいかなかった。その後、Facebookだったか、「海苔」を佐賀産の最上等のものを仕入れることができたという記事を拝見した。これを読んで、再び「飯田商店」へ出かけたくて仕方なかったのだが、昨年暮れに再訪が実現した。