カミングアウトは自分が生きやすくなるため──女性を「取り戻した」、あるフィットネスコーチの物語 #性のギモン
公表してからは、何も隠すことがなくなり、自分らしく生きられるようになった。メイクやファッションは雑誌やYou Tubeから見様見真似で学んだ。かつて自分のことを「オレ」と呼んでいたが、「ワタシ」に切り替わった。目立たない程度にしていた化粧も、いまでは自分をオンにするスイッチとなった。
公表を機に身をひいた仕事もある
LGBTQという言葉は広く知られるようになったが、性的マイノリティであることを公表しやすい環境が整っている会社や組織はそう多くはないだろう。松本さん自身、公表を機に手放すことを決めたY.S.C.C.横浜以外の仕事があったと振り返る。 「組織が大きくなれば、いろいろありますからね。周りにバレないように薄いメイクをしたりもしていましたが、『男なのに髪が必要以上に長い』とマニュアルが送られてきて『〇〇は、こうあるべきだ』と書かれていたり。だから、私もギリギリの線をいっていたのですが……。困ったのは合宿で、ずっと一緒じゃないですか。場合によっては部屋にお風呂がなくて、みんなが寝静まったあと大浴場にこっそり入ったり。フットネイル(ペディキュア)をしていれば、合宿所でもずっと靴下を履いているしかない。私的には続けたいという思いもありましたけど、身を引きました」
だが一方で、企業や組織が安易に「講習会」などを実施し、型にはめたような対応をすることに松本さんは違和感を覚えるという。 「自分らしく自由にしてください。その一言で、よくないですか」 たとえば公的なものであれ、何かの会員の申し込みであれ、書類1つ書くにしても性別を明かすことが求められがちだ。 「あのマルを付けるやつ、なんで書かないといけないのか本当に理解できない。データを取りたいのはわかりますが、男女の区別ってそんなに大事ですかね。たとえば病院であれば、性別で処置が変わることもあると思うので理解できますけど。トランスジェンダーの人なら、必ずぶつかる問題だと思います。私はもう堂々と女性の方にチェックしちゃっていますけどね」