首都圏で導入相次ぐ2階建て車両 ── 全国的には「異色」の存在(鉄道ライター・伊原薫)
首都圏以外で2階建て車両はほとんど見られない?
ところで、今回中央線に導入されるグリーン車を含め、JR東日本が(特急料金が不要、という意味での)普通列車に連結しているグリーン車は、すべてが2階建てとなっています。 その「元祖」と言えるのが、1989年に東海道線へ導入された車両で、それまで使用されていたグリーン車の置き換えに際し、定員増加を目的に2階建て車両を製造。これにより、グリーン車1両の定員は60人から90人へと、一挙に1.5倍になりました。続く1990年には横須賀・総武快速線のグリーン車も2階建てとなり、またグリーン車が連結されていなかった宇都宮・高崎・常磐線にも、2004~2007年にかけて2階建てグリーン車がサービスを開始。現在では400両近い2階建てグリーン車が活躍しています。 このように、首都圏ではすっかりおなじみとなった2階建て車両ですが、全国的に見ると2階建て車両というのはかなり「異色」の存在です。 JR東日本以外に2階建て車両を走らせている鉄道会社といえば、その代表格は日本最大手の私鉄・近畿日本鉄道。かつて世界初の2階建て特急電車となる10000系「初代ビスタカー」を走らせていた同社は、現在も50000系「しまかぜ」や30000系「ビスタEX」の中間車などが2階建てとなっていますが、その総数は35両。JR東日本の足下にも及びません。 同じ関西では、京阪電鉄の8000系が中間に2階建て車両を組み込んでおり、また同社で廃車となった2階建て車両が富山地方鉄道に移籍して第2の「人生」を歩んでいます。 このほか、JR四国でも瀬戸大橋を渡る快速「マリンライナー」に2階建て車両が連結されていたり、富士急行やJR北海道などでも特急列車として活躍していますが、いずれもその車両数はわずか。JR東日本以外の2階建て車両は、すべて合わせても80両前後にすぎません。
首都圏は「輸送力増強」他では「サービス向上」
首都圏だけに次々と2階建て車両が導入されている、最大の理由はやはり混雑度の違い。遠距離の移動を少しでも快適に・・・という、グリーン車利用の要望が増える一方、列車の長さには限界があるため、定員数を増やせる2階建て車両とすることで解決しているのです。グリーン車の利用客は長距離移動が主なため、ドアの数が少なくても対応できることも、導入しやすい1つの要因です。 そういえば、JR東日本では新幹線にも2階建て車両「E4系」が現在ありますが、こちらもその使命は通勤・通学輸送で、1両の定員は最大133人、16両編成では1634人と、東海道新幹線N700系の1323人と比べて300人以上の増加となっています。 対して、首都圏以外の地域で導入されている2階建て車両は、その主な目的が「サービス」です。いつもより高い目線で、景色を楽しんでほしいという理由もあり、近鉄や京阪の車両は特急列車に連結されています。特に近鉄「しまかぜ」ではサロン車両が2階建てで、眺めの良い2階席で(あるいは落ち着いた雰囲気の1階席で)食事が楽しめるようになっています。 また、富山地方鉄道の「ダブルデッカーエキスプレス」は北陸地方初の2階建て車両ということで、子供たちに大人気。2階建て車両は、今も多くの人をワクワクさせてくれる車両なのです。 とはいっても、鉄道会社にとっても2階建て車両は特別なもの。製造コストが格段に高い上、車両が重くなってしまうため線路の保守も大変で、首都圏以外では2階建て車両が身近になることはなさそうです。