時代遅れの大阪万博なんてやめたらいいのに――来年90歳、筒井康隆が見る世界、そして日本 #昭和98年
89歳、作家人生にやり残したことはないけれど
「この間、僕が今89歳だと言ったら、みんなにワッてびっくりされたんですけどね。みんな、老けるのがちょっと速いんじゃない? 90歳になったからといって、もうすぐ死ぬんじゃないかとビクビクはしない。今、心臓にステントが二つ入ってて、まあその程度のこと。胸焼けとか、そんなのはちょくちょくありますけど。自分が老人になったと思わないようにしてます。僕より年上の五木寛之がめちゃくちゃ元気でしょう。クラリネット奏者の北村英治さんもね。まあ、すごい人たちが上にいますから」 やめていたたばこも、「やばいやばい」と言いながら、少しずつ増えているとニヤリ。 「朝起きて、ご飯食べたあととか、そういうときはもう、吸ってもいいって、自分に(笑)。今度検査するんだけどね。吸っていいか悪いか、それでわかると。わかったほうがいいのかもしれないな。わからなかったら増える一方だから。本当はヨタヨタもしているんだけど、昔、役者やってましたから、そうは見えない歩き方とかね。演技のコツでごまかしてます」 人生100年時代。90代を目前に、老いや死を恐れることはないと断言するが、「終活」は抜かりなく、遺言も用意しているという。
「今が作家人生の締めくくり。現実に、もう書くべきことは全部書いたし、書いても前と同じことだし。それなら弱るよりも前に、締めくくりの作品集を出して、どうだ、かっこいいだろう、というのはありますね(笑)。小説はずっとトップランナーで、何かみんな下手だなと思って見下しているところがありました。でも役者の場合は、そうではなかった。ああすりゃよかった、こうすりゃよかったって、今になって思いますね。まあ、役者になりきれなかったから作家になったんだけど」 作家人生にやり残したことはないが、気がかりや、つど思い返すことはある。 2020年、画家だった一人息子を食道がんで亡くした。 「今も悲しくて仕方がないですよね。芸術家は定期検診なんか行かないから、見つかった時はもう末期だった。それがしゃくでね。しょうがない。それで『川のほとり』という小説を書いたんだけど、まあ、あれは嘘っぱちなんですよ。実際に見た夢ではないしね。でもこういう風に書けば泣くだろうって。読者から『泣いた』なんて反応があれば、ザマミロと思ってるんですよ。そんなもんですよ」 悪ふざけやいたずら好きは、子どもの頃から筋金入りだと胸を張る。 ブラックユーモアの隙間から、そこはかとなく情愛が見え隠れする。などと感じるのは、これまた筒井の術中にはまっているのかもしれない。 ___ 筒井康隆(つつい・やすたか) 1934年、大阪市生まれ。作家、劇作家、俳優。同志社大学卒。1965年、処女作品集『東海道戦争』を刊行。1981年、『虚人たち』で泉鏡花文学賞、1987年、『夢の木坂分岐点』で谷崎潤一郎賞、1989年、「ヨッパ谷への降下」で川端康成文学賞、1992年、『朝のガスパール』で日本SF大賞をそれぞれ受賞。1996年12月、3年3カ月に及んだ断筆を解除。1997年、パゾリーニ賞受賞。2000年、『わたしのグランパ』で読売文学賞を受賞。2002年、紫綬褒章受章。2010年、菊池寛賞受賞。2017年、『モナドの領域』で毎日芸術賞を受賞。他に『アホの壁』『現代語裏辞典』『聖痕』『世界はゴ冗談』『ジャックポット』等著書多数。最新刊は、ここ数年書き綴ったショートショートを25篇収録した『カーテンコール』(新潮社)。これが最後の作品集になる(予定)。 「#昭和98年」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。仮に昭和が続いていれば、今年で昭和98年。令和になり5年が経ちますが、文化や価値観など現在にも「昭和」「平成」の面影は残っているのではないでしょうか。3つの元号を通して見える違いや残していきたい伝統を振り返り、「今」に活かしたい教訓や、楽しめる情報を発信します。