時代遅れの大阪万博なんてやめたらいいのに――来年90歳、筒井康隆が見る世界、そして日本 #昭和98年
もう小説は書かない、書き尽くしてしまっているから
「若いときは締め切りに追いまくられて、それを苦痛とは思わなかった。むしろ楽しかったな。書くべきネタは山ほどありましたから。当時の写真を見たら、自信満々な顔してますよ。僕の小説でみんながうわさする。それがうれしくて、書いてた。今もそうですよ。最後の作品集を出すんだけど、きっとみんな喜ぶだろうって自信があります」 今月発刊となる『カーテンコール』が最後の作品集。筒井はもう小説は書かないと繰り返した。何もかも、書き尽くしたのだと。 「いいアイデアだなと思って、書いてやろうかと思うときは、たまにあるんですけどね。たいてい昔、書いてる(笑)」 それでも、これまでずっとそうしてきたように、筒井の心を揺るがすような大きな出来事が起きたとしたら、また小説を書きたいと思うのではないか。 「ネタにして書けそうだなと思ったら、あるいは。でも、もう面倒だね。あらゆることを書いてしまってるから」 文学賞の選考委員は、今も2つ担当している。新しい才能に出くわすのが、いつも楽しみだ。 「作家本位ではなくて、作品本位で、よしあしを見るようにしてます。小川哲さんの『地図と拳』ね、あれは面白かったね。ただ、自分から好んで本を読もうとは、もう思わなくなりました。大江(健三郎)さんなんかも、おそらくそうだったんだろうと思う。やっぱり彼の作品はトップレベルだった。晩年彼は、『私はもう自分の昔の作品を読み返す時期に入りました』って言ってた。そんなもんだと思いますよ。昔の自分の作品に興味が出てくるというね」
時代遅れ……大阪万博なんてやめたらいいのに
筒井が職業小説家を志して上京したのは1965年。東京オリンピックの直後だった。 1970年の大阪万博では、筒井の盟友である小松左京がブレーンとして活躍。経済は成長を続け、当時の日本は、まさに昇竜の勢いだった。 時は流れ、新型コロナウイルスに翻弄されつつも二度目の東京オリンピックが開催された。 日本は少子高齢化で人材不足、円安も進み、経済政策への不満は高まる一方だ。そんななか、2025年には、大阪で再び万国博覧会が予定されている。 筒井の目に、現在の日本はどのように映っているのだろうか。 憂国の言葉を想像していたが、筒井の言葉は意外なものだった。 「けっこう、うまくやってると思いますよ。外国に比べたら、そうでしょ。やっぱり、他の国のどこにも住みたくないもんね。アメリカは嫌だし、ヨーロッパもひどいことになってるし。だいたい、公衆道徳がなってない国は我慢ならないんですよ。交通マナーもひどい、平気で車道を横断するもんね。そういう意味でも、日本は最高だけど……今また万博なんていうのは時代遅れだね。もうやめたらいいのに、あれは。日本には金がないし、来る国にもないしね。大阪の人は万博好きなんて言うけど、あれは昔の夢が忘れられないんでしょうね。確かに楽しかったけれども、今とまた時代が違うわ」 日本は最高、と言いつつ、やはり文句もある。 「今の若い人のことなんて全然わからないけど、ひとつ言えるのは、みんな真面目すぎるんだよなあ。不良っぽいところがないというか。だから色気がないんだよ。このあたりに集まってくるのだって、ほとんど外国人観光客。日本の若者に遊び心がないから、外国人どもが路上飲食して、飲めや歌えや踊れや、もう大騒ぎだからね。これ罰則がないんでしょう? バカにされているようで、腹立ちますよね」