「南海トラフ巨大地震」原作者biki「巨大地震は30年以内に70~80パーセントの確率で起きる」
津波の進行が分かりづらく、避難が手遅れになってしまう可能性も
――内閣府防災担当が発表した今年度の資料によると、南海トラフ巨大地震が発生した場合、震度7が想定される地域は10県151市町村。震度6強が想定される地域は21府県239市町村(※市町村数には、政令市の区を含む)。決して他人事ではありません。 「認知バイアスとして、災害下でも自分だけは大丈夫、死なないと思ってしまうことは誰にでも起こりうることなので、この作品を通して少しでも自分事として考えてもらえたら作った意義があります。今後も、地震や災害・防災の専門家の方、医療に詳しい方、実際に災害に遭われた方にもお会いして、作品に反映させる予定です」 ――先の資料にもありますが、南海トラフ巨大地震では、予想を超える範囲が大きな揺れに襲われます。 「最大震度である震度7に襲われる地域は10県151市町村です。東日本大震災で震度7に襲われたのは宮城県のみであることを考えると、驚異的な数字であることが分かります。 これだけの揺れに襲われると、家屋やビルなど建物の倒壊は避けられませんし、これによって引き起こされる火災も猛威を振るうことが予想されます。バイアスをかけず迅速に、安全な場所に避難することを忘れないようにしたいです」 ――「大津波警報」が発令される中、安全な高台へ逃げようとする主人公の命も“そもそも津波なんか来るのか?”という認知バイアスがかかります。そして襲い来る“見えない津波”の恐怖が…。 「名古屋市を襲う津波は、一般的にイメージされる津波とは異なると言われています。東日本大震災で目にしたような激しいものではなく、白波を伴わずに海面自体がじわじわと間近に迫ってくる津波だそうです。そのため津波の進行が分かりづらく、気づいた時には避難が手遅れになってしまう可能性があります」 ――本作では、名古屋は地形が“湾”になっているため「この程度の津波で済んだ」と、メインキャラクターの1人、元陸上自衛隊員の朝霞剛太郎が解説しています。 「静岡県の御前崎市では最大津波高25メートル、三重県志摩市では27メートル、和歌山県串本町では19メートル、高知県黒潮町では、なんと35メートルもの津波が襲ってくると作中では想定していますが、生き延びるためには、自分が暮らす地域の津波の特徴をあらかじめ知っておくことが大切です。 加えて、大規模な余震によって、さらなる津波が引き起こされます。すでにダメージを負った建物の崩壊にも注意が必要です。浸水域に漂着した可燃物が出火する津波の2次災害“津波火災”も起きるため、名古屋港周辺のように工場や油槽所が集中する地域は特に警戒してください」 ――災害下においては、何よりも情報が重要。本作では、メインキャラクターがSNSを活用しています。 「携帯電話の基地局も、停電の影響を受けることから機能不全に陥りますが、発災直後は非常用電源によって基地局が稼働するため、実は携帯電話を使える可能性が高いです。非常用電源が切れるのは、約3~24時間後(※地域によって異なる)で、その後は通信が遮断され、復旧には数日~2週間程度かかると予測されています。 もしも発災直後、携帯電話を操作できる状況にあるならば、災害用伝言ダイヤルやSNSを活用して家族などにメッセージを残しておくことが大切です。混乱した状況下ではSNSによる誤情報やデマも流布しやすいので、冷静に真偽を見極めるように心掛けたいものです」