W杯出場決定の新生なでしこジャパンは来夏本番で再び世界で勝てるのか?
なでしこジャパンが苦しみながらも、8大会連続8度目となるFIFA女子W杯出場を決めた。 中東ヨルダンで開催されている、アジア最終予選を兼ねたAFC女子アジア杯に挑んでいるなでしこは、現地時間13日のグループB最終戦でオーストラリア女子代表と対戦。1‐1で引き分けたもののグループBの2位で準決勝進出を決めて、アジアに5枠が与えられている、来年6月にフランスで開催されるW杯切符を手にした。 風下に回った前半は体格で勝るオーストラリアに主導権を握られた。それでも次第にパス回しのテンポをあげ、後半18分に左サイドを抜け出したMF長谷川唯(日テレ・ベレーザ)の折り返しを、ボランチの阪口夢穂(同)が左足で押し込んで先制した。 最新のFIFAランキングでは11位のなでしこに対して、急成長中のオーストラリアは6位。リオ五輪出場を断たれた、2年前のアジア最終予選初戦で敗れた難敵を、ミス絡みで同点とされる後半41分まで零封した。日本女子代表の初代専任監督で、現在は解説者を務める鈴木良平氏は、なでしこが見せ続けたアグレッシブな守備を高く評価する。 「スコアレスドローに終わった韓国女子代表とのグループリーグ第2戦の守備は、特に前半の内容が非常に悪かった。ブロックを作って守る際の考え方が、相手の攻撃を待つというか、ちょっと消極的だった。オーストラリア戦は一転して、前へ、前へというアプローチが徹底されていた。高さと速さで上回られる相手の攻撃に押され、はね返すのが精いっぱい、という試合展開ではなかった。前線から積極的にインターセプトを狙っていく守備意識の変化が、ボールを奪った後の攻撃にもいい意味でつながっていった」
W杯ドイツ大会を制して、世界中に衝撃を与えてから7年。当時のレギュラー選手は、いまでは阪口とDF鮫島彩(INAC神戸レオネッサ)、キャプテンのDF熊谷紗希(リヨン)の3人だけとなった。 2012年のロンドン五輪、2015年のW杯カナダ大会でも銀メダルを獲得。黄金時代を築いたなでしこだったが、リオ五輪出場を逃したことで、2008年から指揮を執ってきた佐々木則夫前監督(現十文字学園女子大学副学長、日本サッカー協会理事)が退任した。 バトンを託されたのは、1990年代に日の丸を背負って活躍した高倉麻子氏。年代別の代表監督として2014年のFIFA・U-17女子W杯を制し、2016年のFIFA・U-20女子W杯でも3位に導いた初の女性指揮官を、前出の鈴木氏は「非常に難しい時期に就任した」と慮る。 「世代を交代させていく重要な時期だった。前監督が2011年のメンバーに頼り過ぎたというか、本来ならば少しずつ進めていかなければいけない世代交代を、極端に言えばまったくやらなかったツケがいま、高倉監督に回ってきている。なので、スタイルを作れる段階ではなかったと思う。 それでも、彼女は積極的に選手を入れ替えてきた。外すところは思い切って決断して、若手だけでなく2011年の中心メンバーに隠れていた感のある中間的な世代にも経験を積ませてきた。彼女たちがもっている長所がようやくピッチのうえで表現され、輝きを放てるようになってきた」 オーストラリア戦で言えば、中間世代の象徴がFW菅澤優衣香(浦和レッズレディース)であり、FW岩渕真奈であり、MF中島依美(ともにINAC神戸レオネッサ)となる。そして、若手では17歳以下の世界一メンバーの長谷川やDF市瀬菜々(ベガルタ仙台レディース)、そして3月になでしこデビューを果たしたばかりの21歳のDF清水梨紗(日テレ・ベレーザ)が躍動した。 特に先制点をアシストした21歳の長谷川に対して、鈴木氏は「オーストラリア戦のMVPと言っていい」と、ピッチで放ち続けた稀有な才能を称賛する。 「ボールをもらう前も、自分でもってからも周りが非常によく見えているから、正確な状況判断が下せる。味方がどこにいるか、相手がどう来るかもわかっているうえ、トラップやパス、ドリブルなどのテクニックもしっかり備わっているから、ボールを失うケースが非常に少ない。 このチームには前線にタレントがそろっている一方で、熊谷とパートナーとなるセンターバックと右サイドバックは課題だった。そこへ若い市瀬と清水を抜擢しているのは監督の期待の表れ。まだまだ心もとない部分はあるけど、思い切って起用している勇気を高く評価したいと思う」