シャネルのジュエリー、重ねづけで魅力アップ コーデは「3×3」の法則で
連載《ジュエリーレッスン》
1970年代から1980年代にかけて、海外の名だたるジュエラーが日本に進出。憧れのジュエリーが身近なものとなった。それらを手にした人々の関心は、1990年代になると次第に身に着け方へと移行していく。 【イラスト・写真が12点】「ココ クラッシュ」と「コレクション N°5」、レイヤードコーデを全部チェック! 時を同じくして、女性誌ではジュエラーの新作を紹介するだけでなく、組み合わせを提案する特集が頻繁に組まれるようになった。ジュエリー・コーディネートを知りたいという読者の声が多く寄せられていたからだ。当時、そうした情報は主にファッション誌から発信されるものだった。 しかし、2000年代に入ると、トップジュエラーが自らの手でコーディネートを提案し始める。なかでも2004年に発表された、「ティファニー」の「セレブレーション リング」の重ねづけは大きな反響を呼んだ。シンプルなダイヤモンドのエタニティリングを指に重ねていくだけで得られる、唯一無二の輝き。記念日や喜ばしいことがあるたびに増えていくリングは幸福な人生の象徴となり、多くの女性がジュエリー・コーディネートに目覚めるきっかけとなった。 それから約10年後の2015年、「シャネル」から”ココに夢中”という意味をもつファインジュエリーコレクション「ココ クラッシュ」が誕生する。メゾンのアイコンである「キルティング」をモチーフにしたデザインは、単体でもさまになるが、重ねるほどに魅力が増す、まさにレイヤードによって完成する革新的なジュエリーだ。 選び方と組み合わせ次第で、世代も、性別も、身にまとうシーンも問わないコレクションは、まさに万能。モダンで機能的なデザインは、大げさでなく、おそらく生涯を通して愛用できるだろう。親や子、パートナーと共有できる点も大きな魅力といえる。
■シャネルのアイコン「キルティング」の魅力
シャネルにとってキルティングモチーフは、重要なアイコンのひとつだ。ガブリエル・シャネルとキルティングとの出合いは1904年まで遡る。恋人と訪れた馬術競技場で、彼女は騎手が身につけていたキルティングジャケットやアーガイル柄のセーターに目を奪われた。幾何学的なパターンがモダンでエレガントに思えたのだ。 1920年、デザイナーとして名声を得たガブリエルは、キルティングモチーフをファッションデザインに取り入れ、それ以降、たびたびコレクションに登場させていく。 だが、キルティングモチーフを最も有名にしたのは、1955年に誕生した「2.55」バッグにほかならない。その素材には菱(ひし)形のキルティングステッチを施したラムレザー、ジャージー、あるいはシルクが用いられていた。 彼女がキルティングを好んだ理由は、見た目にひかれただけでなく、実用性に秀でていたからだ。しなやかなラムレザーなどの素材は、手触りがよく、軽さが魅力ではあるものの、そのままでは弱く、日常使いには不向きな素材だった。キルティングにしたのは耐久性を高め、バッグの形崩れを防ぐためだ。また、表面をふっくらさせることで立体的になり、菱形のパターンが際立つ。キズが目立たなくなるという利点もあった。 ガブリエル・シャネルは服に限らず、すべてのクリエイションを通して、エレガンスと機能性が両立できることを証明し続けたデザイナーだ。キルティングはそんな彼女の信念を象徴するモチーフだといえる。 また、女性用のバッグはクラッチかハンドバッグが主流だった時代、肩にかけるタイプの「2.55」バッグは極めて斬新なアイテムだった。実は、ショルダーバッグ自体は1929年にすでに製品化されていたというから驚く。そのデザインはアーミー用のダッフルバッグからインスピレーションを得たといわれている。 両手が自由に使え、キルティングによってひと目でシャネルのものとわかる「2.55」バッグは、第2次世界大戦後、社会進出を果たした女性たちの憧れであり、シンボルとなっていった。