快眠できないのはなぜ? 脳内物質「オレキシン」の働きに注目
仕事の年度切り替えや子どもの進級・進学などで忙しくなるこの時期は、いつも以上に考えることが多くてなかなか寝付けなかったり、しっかり睡眠をとってもなかなか疲れが取れなかったりという人は多いのではないでしょうか。こうして快眠がえられなかった結果として、日中に倦怠感を感じたりすると、 “体内時計が狂っている”、“寝過ぎて疲れている”などと判断している人も多いと思います。しかしそれ以外に、実は「オレキシン」と呼ばれる私たちの脳内で睡眠を司る物質の働きが大きな要因になっているのです。今回は、なぜ私たちは毎日「眠る」「起きる」を切り替えられているのかを紐解きながら、「オレキシン」の働きについて解説します。
「オレキシン」は睡眠と覚醒を切り替えるスイッチ
「オレキシン」とは、一言でいうと私たちの身体が“寝ている状態”と“起きている状態”を切り替えるスイッチの役割を果たす物質です。オレキシンが脳内にたくさん分泌されているとき、私たちの身体は“起きている状態(=覚醒状態)”にあり、この物質がアドレナリンやドーパミンといった身体の活力を維持するために必要な物質の分泌を促し、仕事や勉強のときの集中力やモチベーションの維持に大きな役割を発揮します。一方で眠るときには、私たちの脳内ではオレキシンの働きが弱まり、脳が眠ろうとするため私たちは眠りに落ちます。つまり、私たちの身体は脳内のオレキシンの働きをコントロールしながら、“寝ている状態”と“起きている状態”を切り替えているのです。
このオレキシンという物質は、実は日本人の研究者が発見したもの。筑波大学の柳沢正史教授と金沢大学の櫻井武教授が1996年に発見し、この物質の発見によって覚醒と睡眠のメカニズムの解明が進んだと言われています。柳沢教授は、このオレキシンが冒頭に紹介したような現代人の睡眠に関する悩みに大きく関係していると提言しており、「ストレスが多く、生活時間が24時間化している現代社会では、私たちの脳は必要以上に覚醒し、寝室に入ってからも、更に眠っている時間さえも、脳の不眠不休状態が続いているのではないか」と語っています。 つまり、私たちが寝ている状態になるためには、このオレキシンの働きが脳内で十分に弱まっている必要があるのですが、“なかなか寝付けない”、“寝ても疲れが取れない”、“寝ても気持ちがすっきりしない”といった不眠症状を感じている人は、眠りたい時でもオレキシンが脳内で多く分泌され、脳の働きが必要以上に活発な状態になっている可能性が高いのです。そのため、頭が冴えてしまい眠れなかったり、寝ても脳の動きを休めることができず眠りが浅くなったりするという状態になってしまうのです。