写真家・若木信吾さん親子インタビュー「書店BOOKS AND PRINTSの話」
90年代のビジュアル系の雑誌が持っていたインディペンデントな雰囲気は、リアルタイムで経験した人間には、今でも少なからず影響を与えていると思う。写真家の若木信吾さんを知ったのは、当時マガジンハウスから出ていた「relax」という雑誌で連載を読んだのがきっかけだったと思う。1980年生まれで東京の郊外に住む高校生だった自分は、団塊ジュニア世代には少し遅れてきた世代だったけれど、当時の雰囲気についてよく考えていた。
浜松に行ったというノンフィクションライターの藤井誠二さんが、「若木さんの経営している本屋さんがあるよ」と教えてくれた。アート系の写真集の専門店だと少し縁遠いと思ったけれど、お店から帰ってきた藤井さんがやや興奮気味に、「若木さんのお父さんがお店でこれを配っていてさ」と、見せてくれたショップバックには、お父さんの筆(ペン?)によるイラストが描かれていて、その独特の印象に興味を持った。藤井さんは数十種類の中から髭面の男の顔が書かれた袋を選んだそうで、それを額装したいというほど気に入っているようだった。藤井さんにその紙袋を見せてもらったが、その髭面の男はどこか若木さんに似ている気がした。 若木さんがオーナーを勤める書店のBOOKS AND PRITNSは、浜松の中心部にあるカギヤビルの2階にあった。カギヤビルは少し古い4階建のビルをリノベーションしていて、他にも若手デザイナーの作品を集めたセレクトショップや開放感のあるカフェなどが入っていた。
初期から運営に携わるスタッフの中村ヨウイチさんにお話を伺うと、若木さんのお父さんもかつてお店に立たれていたということだった。またカギヤビルで会う人達が、お父さんのことを一様に「欣也さん」と少し敬愛を込めた感じで呼ぶのを聞いて、「お父さんはどんな人なのか?」とか、「お二人はどんな関係なのか?」ということを知りたくなった。写真家として成功した息子が故郷で経営を始めた本屋を父親が手伝う。文章にしてみれば、それだけのエピソードなのだが、そこには小さな親子のストーリーが隠れていそうな気がしたのだ。 そこで改めて中村さんからお願いしたところ、今回お父さんの欣也さんと若木さんご本人にお話を聞けることになった。私は再び浜松に行き、欣也さんとカギヤビル4階の通称「マシューの部屋」でお会いした。そこはオーストラリア人のマシューが独自の審美眼でリノベーションしたベッドが宙に浮く少し変わった部屋だった。