「中華製と馬鹿にする前に一度さわって乗ってみるといい」BEVの黒船か!? BYD ATTO3にチョイノリで分かったアレコレ
2023年1月に発売となった、中国の自動車メーカーBYDの「ATTO3」。日本の人気俳優を使ったテレビCMも放映されており、BYDやATTO3の知名度もじわじわと上昇してきたように感じる。1度のフル充電で航続距離は470km、車両価格450万円(補助金含まず)~というスペックは、60kWhバッテリーの日産「リーフe+(税込525万円~)」の航続距離450kmよりも長く、価格は75万円も安い。 【写真】この記事のBYDATTO3の内外装を画像で見るならこちらから そんなATTO3に先日、短時間ではあったが試乗することができた。内外装の質感や走りの質など、チョイ乗りで感じた範囲をお伝えしよう。
■スペックからすると、異次元のコスパ
ATTO3のボディサイズは、全長4455mm×全幅1875mm×全高1615mm、ホイールベースは2720mm。たとえるなら、トヨタのカローラクロス(全長4490mm)に近いサイズ感だ。エクステリアデザインは、テスラのモデル3やモデルYのフロントグリルレスの異様な雰囲気はなく、それどころか、シャープなヘッドランプやバンパー左右の加飾、ボディ全体の佇まいなどは、どこか欧州車の空気を感じる。 それもそのはず、聞くところによると、BYDはデザイン部門のトップに、欧州メーカーで働いていた優秀なカーデザイナーが在籍しているという。中国メーカーが、有名なクルマをコラージュしたかのようなパクリ車を量産していたのは、もはや過去の出来事。しかも中国製造の国産バッテリーを使うため、車両価格は税込450万円という異次元のプライスだ。 2024年度は、BEVに対する国からの補助金に関する新ルールが適用され、ATTO3は、昨年度は85万円だった補助額が今年度は35万円にまで減ってしまったが、それでも十分に安い。
■特徴は「カラオケ」だけにあらず。欧州車風の足回りが光る
目の前にした実物のATTO3は、写真でイメージしていたよりもスタイルよく感じた。ブルーのインテリアは品があり、ステアリングホイール前の液晶メーターは最小限だが、デザインがうるさい欧州車と比べると、運転には集中でき、適しているように思う。90度回転する15.6インチの巨大な液晶ディスプレイには驚いたが、大きさに慣れれば実に快適だ。また、エアコン吹出口やドアの内張り、インナードアハンドルなど、様々な部分のデザインが個性的かつ面白く、若さ溢れる遊び心が多彩に仕込まれていると感じた。 驚いたのは、試乗車のセンターコンソールに、マイクが設置されていたこと。実は中国国内ではクルマの中でカラオケが大流行しているそうで、ATTO3では、車内で車載アプリを通して楽しむことができるそう。SNSでは、「(カラオケ含む)インテリアがダサい」というコメントをみかけることがあるが、むしろ、現代の若者の感性に響くのはこちらかもしれない。 ドアを閉めると、「ガスン」と剛性感のある閉じ音がきこえる。ゆっくりと発進して最初の段差を乗り越えると、タイヤのタッチがとても柔らかいことが伝わってくる。車速を上げても、ボディが揺すられることもなく、チープな車体の安っぽさは微塵も感じられなかった。 オーバースペックな235/50R18大径タイヤやリアマルチリンクサスなど、足周りのスペックによる恩恵もあるのだろうが、質感の高い乗り味には正直驚いた。高速道路を走ることはできなかったが、加速フィーリングや音も含めて、まるで欧州製のBEVにのっているかのようなフィーリングだった。
■中国製品に抱いてきたイメージとは別物だった
ATTO 3は、筆者が中国製品に抱いてきたイメージとは別物だった。そして税込450万円(補助金含まず)はあり得ないほど安い。単純に価格が安いというだけでなく、コストパフォーマンスという面で、日本車メーカーはまったく太刀打ちできていない。 BYDは今後、コンパクトBEVのドルフィンに加えて、さらに質感高いセダンタイプの「SEAL」を、2024年年央に日本上陸させるという。日本では、ATTO 3含むBYD車が爆売れすることはないだろうが、驚きとともに焦りを感じた試乗だった。 Text:吉川賢一 写真:BYD、エムスリープロダクション