10月に誕生した「東京科学大」と統合に挫折した「静岡大学」と「浜松医科大学」の明と暗
10月1日、国立大学法人の東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し、東京科学大学が誕生した。ともに国立大学のリーダー格である「指定国立大学法人」に指定されている。 【写真】悠仁さま筑波大進学で起こる“ロイヤルフィーバー”…自宅から1時間半も皇族初「東大卒」断念の納得感 東京科学大学は二つの大学の医学、歯学、理学・工学の他分野間の連携を進めている。難病やエネルギー科学など合わせて10以上の研究で連携し、若手研究者を中心に40を超える研究テーマが検討されており、統合効果が期待できる。東京医科歯科大学では「口腔機能関連の新たな機器開発及び医療データの活用」を研究課題に選び、その1例として、管楽器奏者が演奏中に唇を保護する「ミュージックプリント」という器具を歯学部女性講師が作製して、注目された。 このように具体的な病状に対応した医療機器の開発や関連データの分析と活用については、東京工業大学のノウハウを活かした。学部教育の段階で医工理の多分野の講義を受けられる「医歯理工融合教育プログラム」も2025年から始める。医歯系、理工系の両方の学士を1人が得られる制度も検討している。 また、名称が変わる東京科学大学病院も、理工学系、医歯学系の連携が進んで、医学・医療で大きなシナジー効果が期待できる。 こうした近未来の大学の教育研究を占うキーワードの1つは、医工連携であろう。この「工」には理学系やデータサイエンスを含めるべきだ。 医療の分野は手術ロボットのように機器の活用が急速に広がり、それに伴なってデジタル化が進み、データサイエンスのノウハウなしには治療を進められない状況になっている。 大学の医歯系学部でも、医歯科分野におけるデジタル化を進め、そのデータを活用した分析による予防医学も望まれる。今回のコロナ問題で、その重要性は広く再認識されたようだ。 たとえば、横浜市立大学医学部教授であった山中竹春横浜市長は早稲田大学理工学部数学科卒業のデータサイエンス専門家だった。他の大学医学部の教員にもデータサイエンストが増えている。 日本の大学で初めてデータサイエンス学部を新設した滋賀大学には医学部はないが、県内の滋賀医科大学の統合が当面の課題になっている。 ■静岡大学と浜松医科大学の統合はなぜ挫折? この医工連携を目標に大学の統合を狙った動きは、静岡大学と浜松医科大学の統合問題でも見られた。大学の統合は、東京科学大学のように法人・大学ともに統合して「一法人一大学」となるケースと一法人が複数の大学を運営する形で統合する「アンブレラ方式」とがある。 静岡大学は、このアンブレラ方式で浜松医科大学との統合・再編を目指した。旧浜松高等工業学校にルーツのある工学部と浜松キャンパスの情報学部が浜松医科大学と統合した浜松グループの大学、旧制静岡高校にルーツを持つ静岡キャンパスとが別に大学として独立し、一法人にこの二大学に属するアンブレラ方式である。 ところが、公表後に就任した静岡大学の学長は、アンブレラ方式でなく、一つの大学に二つの分校を置く「一大学二校」案を提唱した。前情報学部長の副学長は、アンブレラ方式の支持者だ。来年度からの静岡大学学長の選挙がこの秋に実施され、現学長が当選したので、当面アンブレラ方式による統合は難しいようだ。浜松医科大学は「医学部におけるデータサイエンス人材育成」を研究テーマに掲げているが、独自な取り組みとなる。 既存の国立総合大学などで医学部と理工系学部が医学連携に真剣に取り組み進展しているか、と言えば、そうとは限らない。学長選などで、教員数の多い医学部と理工系学部が対立してきた歴史のある大学も少なくないからだ。その点で統合や新学部創設などの組織再編などがあれば医学連携が活発化する可能性が高い。データサイエンスも含めた医工連携は、大学の文理融合の教育研究分野で起爆剤なるであろう。 (木村誠/教育ジャーナリスト) ◇ ◇ ◇ 年明けには来年度の一般入試が始まる。気になる人気校は?●関連記事【もっと読む】朝ドラ"モデル"の母校・明大と4年連続増の関学大 2025年入試で志望者が多くなりそうな大学は?…に詳しい。