アイドル運営の切実な経済事情とは 握手会など対面イベントは生命線
コロナ禍は私たちの生活のさまざまな部分に影響をおよぼしてきましたが、アイドル界では資金の潤沢なごく一部のメジャーアイドルを除いては、物販を含む握手会や特典会をはじめとする対面イベントが開催できずダメージを受けたケースも少なくありません。このところ徐々にイベント規制の緩和が進む中で、それら対面イベントが近年のアイドル運営にとってなぜ大事なのか、運営や現場スタッフの声を聞きました。
オンラインでは代替不可能な文化
「コロナ禍は対面イベントの重要性を再認識する機会となりました」と話すのは、アイドルグループ・夢みるアドレセンス、CALL MY NAMEのプロデューサーを務める上田龍之介さん(タンバリンアーティスツ)です。 「アイドル文化ならでは、オンライン交流だけでは補えない文化が影響していると考えています。推しているアイドルと対面する場では自分の存在を認識してもらう承認欲求も大きな要素なんです。オンラインには遠方からも気軽に参加できる良さはありますが、リアルな対面という価値にはかないません。実際、私が運営するグループでもオンラインコンテンツの売上で対面イベントでの売上を補完することはできておらず、それはファンの皆様の満足度を裏付ける結果と捉えています」(上田さん)
目の肥えたファンのニーズに応えるため四苦八苦
昨年、名古屋で新たなグループを立ち上げたAim(エイム)運営チームリーダーの青山悠二さんは「握手会やチェキ、グッズなどの物販はご当地アイドルや地下アイドルにとっては『生命線』です」と話します。 「最近はファンの皆さまの目も肥え、地下という呼び名には似つかわしくないほどコストをかけた楽曲や衣装でライブを行うグループも増えました。新規立ち上げのグループも、デビューステージですらひと昔前のようなTシャツとパニエといった質素な衣装で戦うことはできない時代になっています」(青山さん) 最初から楽曲、衣装、ダンスに高いクオリティーが求められ、飽きられないように短いサイクルで次々と更新していかなければならず、まずそこに投資が必要というわけです。 「200~300名キャパのホールでレンタル代を20~30万円ほどとして、チケット代2000円で半分の100名を動員しても売上は手元に残りません。一方、イベンターやホールが主催して複数グループが15~20分の持ち時間でライブを行う『対バン』はアイドル側が会場費を負担する必要がほぼなく、出演後に握手会を開いて売上を立てられるため効率が良いです。ただ近年はチケットバックがないことも多く、企業や自治体が主催するイベントへの出演ギャラがもらえるほどの知名度がないグループが、握手会以外でマネタイズできるものはほとんどありません」(青山さん) 対バンは主催者にとって1グループあたりの動員は少なくても、10~15組が出演することによりチケットの販売数を伸ばせます。最近アイドル運営が対バンを主催するケースも増えていますが、その背景にはこれらの要因が重なっているようです。